3-13,攻略作戦、開始
【これまでのあらすじ】
村の小さな少女タルトは森で異世界人の高校生の安藤夏樹と出会う。ナツキの周りには何故か美少女が現れないので仲間を探すために人がたくさん集まる王都にいく。
そこで異世界人の「お金を生み出す力」をもつ今川凛冬と「王になる力」をもつ国王での佐藤るい(ルイ)たちと出会い彼らも助けることを決める。
トワイローザ王国は隣国アルムス王国より戦争を仕掛けられており国王であるルイはその対応に追われていた。国力で大幅に勝っているはずなのに何故かトワイローザは戦いに敗け続けているという。その原因を探るためにタルト達は戦争の前線に赴いていた。
アルムス王国は「戦いに勝利する能力」をもつ異世界人シューマの力によって小国でありながら大国トワイローザ王国との戦いに勝ち続けていた。
王国の危機を救うためにタルトたちはシューマを攻略するための作戦を展開する。
前回の敗戦から三週間。アルムス王国軍は前回侵攻したシノ地区に拠点を築き、現在もトワイローザ王国辺境警備軍と小競り合いを繰り返していた。
シューマの進軍はどんな兵力で迎え撃っても抑えることは出来ず、国境はじりじりと押し下げられていった。
ボクたちはガトー将軍の遠征軍に度々ついていき、前線での戦いに参加した。目的はボクたちの考えた作戦が通用するかどうか、シューマの能力を確かめるためだ。
「戦いに勝てないのなら勝つことを目的とせず、時間稼ぎに徹しよう」
これがボクたちが考えた作戦だ。シューマの能力はあくまで戦いに勝つという能力。言葉だけを聞けば対抗することなんてできなさそうだけど、そんな概念的な能力であるがゆえに「どうやって勝つ」だとか「いつまでに勝つ」だとかそういった指定はないんじゃないかと考えたんだ。その証拠に何度も戦いに敗けているのにトワイローザ王国の被害はほとんどなく王都ロスアブルにおいては平時と何も変わらないほどだ。
ボクたちはガトー将軍と協力して、戦略的撤退を繰り返し、時間稼ぎに徹した。シューマの能力は「勝つ」能力であり、それは結果として「勝つ」ということ。だったらボクたちにできるのは勝つまでの「過程」に干渉するしかない。
前線では何度かシューマと会敵した。
「それがお前の仲間の能力か。凄まじいな」
ナツキはこの頃には炎の腕を自在に操れるようになっていた。並の魔道士程度は相手にならないほどの火力を出す。敵の弓や剣などは近づくことも許さないほどだった。だけどそのナツキの炎の腕すらも常に雨や敵の追い風、様々なアクシデントでまともに使わせてもらえず、トライアンフの力によってナツキも何度敗け続けた。
「言っただろう! どんな能力者を連れてこようと俺は絶対に勝つと! いい加減負けを認めて俺の仲間になったらどうだ? タルト」
「まだまだこっちは全然余裕だよ! そっちこそそんな少ない兵で戦い続けて疲れがきてるんじゃないの? そろそろ撤退したらどう?」
「ははは。たとえ兵士が動けずとも俺がいれば勝てるんだ。お前たちが引き伸ばし工作を行っているのは既にわかっている。よく考えたな。だが、それも予想済みだ!」
シューマが前線に来ると戦況はいつも一気に悪化する。天候、地形の急激な変化、風、病、あらゆる条件がシューマに有利に働き、戦力差をひっくり返してしまう。
「ナツキ!撤退だ。皆も下がって! 後方部隊に任せて前衛は撤収!」
なるべく兵に危害が出ないうちに撤退を繰り返す。目的はシューマの進軍を遅らせること。まともに戦えば戦うほど被害が出てしまうのだ。
シューマの能力を知っていること、戦術兵器級の兵士であるナツキを所有していることからボクは戦場での指揮権の一部も任されるようになった。
「はい! タルト様!」
「タルト様とナツキ様もお気をつけて!」
入れ替わりのときに兵士たちが声をかけてくれる。
「ありがとう! 皆も気をつけてね!」
たっぷりと休ませておいた後衛と交代してボクたちの部隊は撤退する。
兵の多さをつかって常に部隊を入れ替えて、被害を最小限に抑えていく。
顔見知りになってきた兵士も増えてきた。
最初こそこんな形をしているので訝しがられはしたけれど、ナツキがクソ真面目に戦っていることや、ボクの立案した徹底した持久作戦がうまく機能したおかげもあり、これまで通り敗け続けはしても被害が格段に減っていった。
そのうち、兵士の負担が大幅に軽減されたことから、少しずつ信頼されるようになってきたのも感じるようになった。
とはいえ、今日も敗けた。わずかとはいえ、またトワイローザ王国は国境を下げさせられてしまった。
夜。今日の戦闘を終えて、野営地。
「みんな、今日もお疲れ様。怪我人の中でひどい人がいたらボクのところへ連れてきて。自力で歩けそうな場合は一旦王都に戻って治癒を受けてきて。長期戦になるから絶対に無理はしないこと!」
慣れない戦場での指揮だったけど最近はガトー将軍がボクにやらせようとしてくる。なんでも「自分は戦うほうが好きで兵士を鼓舞するのは苦手だ。タルト殿の方が兵士のやる気を出させるのが上手いから」とか言ってボクに押し付けてくるのだ。まあ、どんなに上手に指揮しようと必ず敗けてしまうのだから誰が敷きをとっても同じだからね、ここは一つボクが変わりに指揮をとり、敗け続ける汚名を被ってあげようと考えて、ボクも指揮を任されることにしておいた。
大怪我をした場合はナツキの回復薬をつかって回復を行う。最近は調子がよく、回復薬の生成に失敗することはほとんどない。切り傷程度なら瞬時に回復できるし、内臓が少々飛び出たくらいなら余裕で治せてしまう完全反則の代物だけどトライアンフを相手にしているのでこちらも遠慮なんてしてられない。異世界能力全開で挑ませてもらう。
兵士の皆と今日の夕礼を終えると、ガトー将軍も今日も敗けたというのにやたらと機嫌よく近づいてきた。
「タルト殿が元気いっぱいなお陰で兵士の士気も高くてなによりですな。敗け続けているというのに、見てください。皆笑顔なんですよ」
夕礼のときには姿が見えなかったけどどこかから見ていたんだろうか。
そういうガトー将軍も初めて会った時は目の下には隈ができていて、頬はこけていたし、目の輝きも失っていた上に目つきも病人のような苦しさを感じるものだったのに、今はずいぶんと穏やかになった。
兵士たちもボクたちが最初に来たときに比べて、ずいぶんと元気になった。
もともと、将軍も兵士たちも怪我や疲れはそこまで大きくはなかったはずなんだ。兵站の豊かさを利用して補給線をしっかりと作られていたからね。
彼らが死んだ魚の眼をしていたのはどうやっても勝てなかったから。
でも今は最初から勝ちにいくのではなく、少しでも戦いを長引かせて、敵の侵略速度を抑えることを目的としている。将軍も兵士も心の負担が一気に軽くなったんだと思う。
そして、この場合、シューマの能力は効果をうまくはっきできていないようだった。こちらの作戦もシューマとの戦い以外においてはうまく機能している。
ボクたちの「作戦」はうまくいっているように思えた。
「ガトー将軍どこ行ってたの? またボクに夕礼を押し付けて」
「今日も立派な演説でしたなタルト殿。タルト殿が将軍になってくだされば私も以前のようにもっと前線で戦うことができるんですけどね」
「そんなの無理に決まってるじゃないか。代わりに号令を出したりはしますけど、ちゃんと作戦指揮は考えてくださいね」
ガトー将軍は少し真面目な顔になって答えた。
「わかっております。この持久作戦はたいへんうまくいっております。ですが、大局的に見れば敗け続けていることには代わりありません。この作戦で行っても、もって数ヶ月から一年というところでしょう。このままではいずれは王国の中心まで敵に制圧されてしまいます」
「そうだね……」
作戦はうまくいっている。だけどこれはあくまで一時しのぎに過ぎない。
シューマを倒さない限りはいつかはこの国はアルムス王国に敗北してしまうことになる。
そのためには
「作戦の第二段階に入るまで、少しでも敵の進軍を抑えて耐えていこう将軍」
「わかっております。明日はこのあたりから敵が攻めて来ることが考えられますので、第一部隊を……」
ガトー将軍は地図を広げながら作戦をボクに説明してくる。
「将軍、明日もボクに号令をさせるつもり……?」
「最近は私がやるとあからさまに兵士ががっかりするんですよ」
それから幾度かの小競り合いを繰り返して、その時はやってきた。
「なんか最近敵の数が少なく感じないか?」
「ああ、今日も敗けたが手応えを全然感じなかったな」
「敵の装備見たか? 棍棒で戦ってるやつまでいたぞ」
兵士たちからそんな声が上がりだした。
もちろん、ボクも将軍も敵の戦力の低下を感じ始めていた。
「うまくいったようですな」
ガトー将軍から正式に報告を受け、作戦の第二段階へ以降する時が来た。




