3-12,制約
【これまでのあらすじ】
村の小さな少女タルトは森で異世界人の高校生の安藤夏樹と出会う。ナツキの周りには何故か美少女が現れないので仲間を探すために人がたくさん集まる王都にいく。
そこで異世界人の「お金を生み出す力」をもつ今川凛冬と「王になる力」をもつ国王での佐藤るい(ルイ)たちと出会い彼らも助けることを決める。
トワイローザ王国は隣国アルムス王国より戦争を仕掛けられており国王であるルイはその対応に追われていた。国力で大幅に勝っているはずなのに何故かトワイローザは戦いに敗け続けているという。その原因を探るためにタルト達は戦争の前線に赴いていた。
戦いに敗けたボクらは王宮へと戻った。
王宮ではルイがボクたちの帰りを嬉ションでもしそうなくらいに心待ちにしてくれており「まずはお疲れでしょうからお風呂にでも入ってきてください」と言われて一旦それぞれの部屋へと戻った。
クレアは約束通り還ってきた。それからというものクレアはボクにつきっきりになっていた。
ほぼボクの影が踏めるくらいの距離から離れない。「タルト様のおかげで私は無事に戻ってこられました。私はこれからもタルト様を全力でお世話します。させてください」と言って聞かない。そんなことはないから気にしないでと言ったんだけどね。ダメだった。
ルイの勧めもあってボクたちはまずお風呂に入る。もちろんクレアはぴったりついてくるし、ボクの服を当然のように脱がせ、敷物の上に寝転がせ、いつもよりも念入りに洗ってきた。今日ばかりはボクもされるがままになってクレアにおまかせした。野営中は体を拭くことすらもできずずっと泥だらけだったし、ボクも少し疲れてたから。
遠征軍に参加した最初の頃はね、少しは周りの強烈な男や汗のニオイを感じたりも汚れを気にしたりもしていたのだけど途中からはそんなことも気にしている暇もなくなった。髪も躰も思っている以上に汚れ、そして傷ついていた。あちこち染みた。ボクはすべての汚れを落とされ、すっかりきれい磨きあげられ、服を着せられて、それを見てようやくクレアは満足したらしく、少し安心した顔を見せてくれたのだった。
そして、いつもの黄金の間にて今回の戦いについての会議が始まった。参加者はボク、ナツキ、リント、ルイ、クレアの五人だ。
まずはボクだけが知っている敵の常勝将軍シューマとのことをみんなに話した。
リントが叫ぶ。
「絶対に勝つ力ぁ? なんすかそれ? 意味がよくわからないんすけど」
「意味も何もそのまんまだよ。勝負ならどんな条件だって勝つ力。それが百戦百勝の能力だよ」
とか言うもののボクもまだイマイチよくわかってないんだけど、目の前で見せられた奇跡の数々はその能力を信用するのに十分なものだった。
「めちゃくちゃな能力だな……」
ナツキがつぶやく。
斬られても焼かれても死なない能力を持つナツキが言うと妙に変に感じる。君の能力も十分にめちゃくちゃだったよ。
ボクたちが敵部隊に襲われてピンチになったとき、ナツキは自分の腕を大きな炎に変化させる新しい技を使った。
あれは新しい能力と考えることもできるけど、多分違う気がするんだ。
ここらで一旦、ナツキの能力についてまとめてみようと思う。
まず、腕が切り落とされても元に戻る「超再生力」
腕を鋼鉄並みに硬くする上に魔物の鎌のような切れ味がある刃物に変化させる「鋼鉄の鎌の腕」
どんな傷もすぐに治す「回復薬」を出す
腕から「棍棒を生成」する。
そして「腕を炎に変化させる」←NEW!!
こうしてまとめてみるとナツキの能力もたいがいめちゃくちゃだ。統一性もない、ように一見感じる。だけど、全てに共通していることがあるって気づいた。
なかなかゆっくり考える機会もなかったのでこの機会に詳しく分析してみよう。
実は、どれもこれもナツキが一度経験していることが元になっていて、特にナツキの躰に危害が加えられたときに限定されているように思える。
「超再生力」は「腕の生成」とも言える。
「鎌の腕」はナツキがこの世界に来てすぐに両腕を斬り落とされた魔物のものと同じだ。
「回復薬」はその時ボクがナツキにかけてあげたこの世界最高級品の一品。
「棍棒の生成」は……その、ボクがナツキの腕をへし折ったときに使った武器が棍棒だ。
「炎の腕」も心当たりがある。ナツキは死刑になって全身を火あぶりの刑にされたことがある。
やっぱり、どれこもこれもナツキが受けた被害がもとになり、そしてどれもナツキの躰が変化して生成しているとすると一応は辻褄も合う気がするんだ。
この世界の理を覆す異世界人の能力とはいえ、なにかしらの一定のルールのようなものがあると思うんだ。リントの一攫千金はお金を無限に生み出せるがその価値は操れなかったり金は生み出せなかったり。ルイの絶対王政も王になるという力と引き換えに追う以外にはなれないという一種の制約のようなものが存在している。
自由でメチャクチャなように見えても異世界人の能力には一定のルールのようなものがあると思うのだ。
だとすれば、ナツキの能力は……ボクの考えでは、だけども
――自分の躰が経験した物を生成する能力
なんじゃないかと思う。ちょっとややこしいな。
超回復もその能力の延長にあると思えば一応これも理屈が通る気がする。
そして、制約としてナツキが経験していないものは生成できない。あとはこれはまだよくわからないけど発動が不安定というのもある。うまく発動できる時とできない時がある。まだなにか条件があるのかもしれない。なるべく早くそこも把握しておかないといざという時に使えなければ困るかもしれない。
クレアはボクの左に座ってボクの左腕に腕を絡めている。今日は意地でもボクから離れないつもりらしい。女の子同士なので気にする必要はないんだけど、ものすごい弾力があるものがボクの腕にあたっている。もしかして嫌がらせか?
「敵の将軍……シューマ将軍でしたっけ。私も剣で撃ち合ったのですが明らかに剣は素人でした。なのに、私の剣が当たらなかったんです。言い訳になるんですけど踏み込んだ地面がぬかるんだり、目の前に葉が飛んできたりして……あれも能力が働いていたんですね」
そうだと思う。ボクもあいつの能力の理不尽さは身にしみて味わった。
クレアと逆側の右腕にはルイがしがみついている。おかげでボクはベッドの上で身動きが取れない。
「でも敵に異世界人がいることがわかって、その能力が判明したのは大きな前進ですね。タルトさん本当にお疲れさまでした。でももう危ないことはしないでくださいね」
ルイはそういって腕に力を込めてくる。心配かけてごめんね。だけどこのままではボクたち、いやこの国は確実に「負ける」ことになる。
「シューマの言うことが本当ならわかっていることはもう一つあるよ。相手陣営には他に異世界人がいないってこと。少なくともシューマと一緒にはいない。だから、アルムス王国が戦いに勝っているのはすべてシューマの能力ってことになるね」
「ということはそのシューマってやつをどうにかしさえすればいいってことか」
ナツキにしては理解が早い。そう、この戦いはシューマをどうやって倒すかにかかっている。だけど……。
「だけどさ、簡単な話じゃないっすよね。いくらこちらが大軍で迎え撃っても結局敗けちまうんすよね。それって極端な話、一VS万でも勝てるんすかね?」
リントの疑問に対してはボクを含めだれも答えを持たない。だけどあの能力なら地震でも天変地異でもそれ以上の予想も使いないようなことでも起きて、シューマが勝ってしまう可能性だってありそうだ。
シューマと真正面からやりあっても勝てないことはすでに十一回もの戦いで証明済みだ。
だけどボクには気になっていることがある。
「ボクは君たち異世界人の能力を見てて感じたことがあるんだ。それは、君たちの異世界能力は「願い」が元になっているのはたぶん二人にはわかると思う。リントはお金持ちになりたい、ルイは王様になりたい。ナツキはよくわからないけど。その「願い」を叶えるような形で能力が与えられたと思うんだけど、その能力には何かしらの「制約」があるんじゃないかって思うんだ。リントはお金持ちにはなれても裕福にはなれない、ルイは王になれても王をやめれないとか。どの能力も願いの言葉をそのまま叶えた能力になっているんだ」
「だったら丨やつの能力にもなにか制約みたいなもんがあるってことか」
「そう。……君たちが転生するときに会ったという神様ってどこか抜けているのか、それともわざとなのかはわからないけどそういった制約、代償のようなものがつくように能力を授けてるような気がするんだよ」
「それは一体何のためにっすか?」
「それはわかんないよ。本人に聞いてみないと。でも、もしそうだとしたらシューマの願いが能力攻略の鍵になるかもしれない」
「なるほどな。絶対に勝つ力。それに見合うような制約とすれば……うーん」
ナツキもその他のみんなもいろいろ考えこんだ。いっときの静寂。
絶対に勝つ力。そんなものに勝つというのは文字通り無理だ。
他のアプローチが必要になる。
静寂を破ってボクは言った。
「ボクね、作戦を思いついたんだ。何の保証もないんだけど。直感で思いついた作戦なんだけど。それにこれはみんなの、全員の協力が必要なんだけど」
この後ボクの考えついた作戦をみんなに話し、さらにみんなと考えを出し合って作戦を詰めていった。
そして「トライアンフ攻略作戦」が完成した。




