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3-11,百戦百勝

【これまでのあらすじ】

 村の小さな少女タルトは森で異世界人の高校生の安藤夏樹ナツキと出会う。ナツキの周りには何故か美少女が現れないので仲間を探すために人がたくさん集まる王都にいく。

 そこで異世界人の「お金を生み出す力」をもつ今川凛冬リントと「王になる力」をもつ国王での佐藤るい(ルイ)たちと出会い彼らも助けることを決める。

 トワイローザ王国は隣国アルムス王国より戦争を仕掛けられており国王であるルイはその対応に追われていた。国力で大幅に勝っているはずなのに何故かトワイローザは戦いに敗け続けているという。その原因を探るためにタルト達は戦争の前線に赴いていた。



「お前が異世界人についてどのくらいのことを知っているかを話せ。この前の会議のとき、埼玉がどうとか言っていただろう」


 ボクとシューマは手頃な岩の上に腰を下ろして話すことにした。

 もったいないのでリンゴは食べよう。

 半分に切ってシューマにもあげたら受け取った。いっそ毒でも仕込んでおけばよかったか。

 イチゴの方は潰れて食べられそうになかったのでこのまま鳥さんにあげることにする。

 ボクはリンゴを頬張りながら答える。


「うーん。そんな事言われても詳しく知っているわけじゃないよ。ボクは異世界人を何人かみてきたけど、実際に言葉を交わしたことがあるのは……五人くらい?」


「五人も、か。どれだけ異世界人に会いやすい体質をしているんだお前」


 シューマもリンゴを頬張りつつ答えた。


「そぉ……なのかな。うん、そうかもしれないね。最近は特によく会うよ」


 今日も異世界人シューマに会ったわけだし。

 まるで何かの歯車が噛み合って動き出したかのように、ボクの周りの環境が激変していく。そこにはいつも必ず異世界人がいる。


「それで、元の世界への帰り方とかの情報はないのか?」


「え? 元の世界に帰れるの?」


 驚いてシューマの方を見る。元の世界へ帰るなんて考えてもなかった。そうか、普通は元の世界に帰りたいって考えるものなのか。


「さあ。それを俺が知りたいんだが、お前は知らないようだな。じゃあ、そうだな。お前は異世界人を多く見てきたのなら異世界人の特徴、みたいなのってあるのか?」


「異世界人の特徴かあ。ボクが知ってる異世界人が特殊なのかもしれないけど、みんな体力がないね」


「それは……確かにそうかもしれないな」


 シューマも心当たりがある部分らしい。


「あとはみんな変な能力をもってたりして、おかしな事件によく巻き込まれてる、かな」


「……そうか。やっぱりそういうもんなのか」


「それくらいかな……ねえ、ボクも聞いていい?」


「なんだ?」


「シューマはハーレムは作ってるの?」


「ゴホッ ハーレム? なんの話だよ!」


 シューマは飲み込みかけていたリンゴを吹き出しそうになりながら咳き込む。


「だって、異世界人ってハーレムを作るものでしょ。どうなの? シューマの周りには美少女がいっぱいいる?」


 口を拭いながらシューマは慌てて答える。


「そんなものは、いないな。そもそも俺はこの世界に来てから仲間と呼べるような存在すらいない」


 ナツキやリントと同じパターンってことか……。


「だから、お前と一緒にいる異世界人が羨ましいよ」


「どうして?」


「だって仲間がいるんだろ。お前みたいなさ」


「いや、ボクはその、期間限定の仲間っていうか、協力者みたいなもので……」


「そうなのか? じゃあお前さ、俺の仲間にならないか?」


「え!? なんでボク?」


 敵の国の将軍に勧誘されてしまった! もちろん答えはNOだけども、ルイやみんなを裏切る訳にはいかないし。だけど、シューマもリントみたいに仲間に飢えていたということなのかな。


「だってお前面白いし。俺お前のこと気に入ったし」


「ボク何の能力もないし、見ての通りチビだし、それに美少女でもないんだよ?」


「そんなもんどうでもいいだろ。仲間にメリットなんて求めないだろう。お前はそんな事を考えて仲間にするかどうか判断しているのか?」


 頭と心臓を同時に殴られたような気がした。

 仲間にはメリットを求めるもの。ボクはそう思いこんでいた。だけど、シューマの問いを改めて考えてみる。ボクにとって仲間と言える人々にボクはメリットを求めていただろうか。ナツキには助けられもしたけどお世話をしたことも多々ある。リントは今のところボクの完全なお荷物だしルイは素敵なお部屋を提供してくれているけれどそんな理由で仲間になったわけじゃない。クレアだって剣士だからとか親衛隊長だから友達になったわけじゃない。


「違う……かも」


「そうだろ。一緒にいたいとか、そいつのためになにかしてやりたいとか、目的が同じだとか、そういう理由で一緒にいるもんじゃないか、仲間って」


 異世界人だからといってボクは決めつけていた。

 彼らは物語の主人公たち。だから彼らの仲間になる人間は彼らの役に立つ人間じゃないとだめなんだと。ボクのような平凡な一般人は彼らと関わってはならないと。

 もしそうじゃないとしたら。

 ボクは彼らの仲間ということになるのだろうか。彼ら……ナツキ、リントウィン、ルイにとってボクはもう仲間ということになるんだろうか。

 ボクはつい考えにふけってしまって無言になっていた。その様子をシューマは黙って待っていてくれた。


「あ、ごめん、ちょっと考え事してて」


「お前さ、美少女じゃないっていうけど、けっこうな美少年じゃないか?」


 ボクの顔を覗き込みながらシューマが言う。近い近い。それにいきなり何を言い出すんだいこの子は。



「お前の髪と目の色。すげえ色してるな。金色に近い青っていうか、それって南方系の血との混血か?」


「そうだけども! ちょいと離れて、おくれ!」


 ああ、なんだろう異世界人たちはなぜこんなにボクにかまってくるんだろうか。ボクは異世界人とは距離を置こうとしていたはずなのに。むしろすぐに懐かれてしまう気がするんだけど。


「ごめんごめん。俺らの世界には無い色だからめずらしくてつい、な。綺麗だな、それ。ほんとお前はおもしれーやつだな。だってさ、気づいてるか? お前は自分では何の能力もないって言ってながら異世界人の知り合いが何人もいて、戦争の会議に出席するわ敵の将軍とこうして談笑するわ、普通はありえねえだろうよ」


 それはボクも薄々感じてはいた。ボクはもしかしてもう物語の登場人物になってしまっているんじゃないかな。それっても揺るぎない事実なのではないか。シューマから客観的に事実を陳列されてしまい認めざるをエなくなってしまった。

 美少年だからセーフではなかった……と!?


「それはダメ――!! だってボクは異世界人とは関わらないって決めてるんだから!」


 急に興奮して立ち上がり、たぶんシューマにとては意味不明なことを叫んだボクに一瞬驚いたシューマだったけど、特に気にするでもなく「そっか」と優しくつぶやいただけだった。


「じゃそろそろいくわ俺」


 シューマは立ち上がった。


「えっ、もう?」


「なんだ? まだ話してたいのか?」


「あ、いや、そういうわけじゃないけど……ボクはまだ君にとって何も有益なこと話せてないし、これじゃ……」


「心配するなって。約束通りあの女剣士はちゃんと還してやる。最初からそのつもりだったしな。ただ俺と同じような異世界人がいるのなら会ってみたいって思っただけだったからな。俺の他に異世界人がいてそれを知っている人間と話せただけで俺にとっては有益だったよ。それに、結構楽しかったしな。お前との勝負」


 シューマはいたずらに笑ってみせた。ボクはあの勝負を思い出して顔が熱くなる。


「ボクが異世界人ではなくてごめんね。じゃあ、今度は連れてくるよ。うちのポンコツ異世界人たちをさ」


「ははは。そりゃ楽しみだ。だが、次に会うときはたぶん戦場だ。ってことは……殺し合いながら自己紹介することになるな。なんかそれはそれでかっこいいかもな」


「なにそれ。すっごく異世界人の物語っぽい」


 二人でクスクスと笑ってしまう。今目の前にいるのが敵の将軍。我が国をピンチに陥れている常勝将軍であったことなんて忘れてしまっていた。


「違いない。……実はな、さっきの勝負はな、実はタネがあるんだ。インチキをしたお詫びに一つ俺からも教えておいてやるよ。俺の能力は百戦百勝トライアンフだ。絶対勝利の力ってやつでな。あらゆる勝負に勝つっていうチート能力だ」


百戦百勝トライアンフ……いいの? 教えちゃって」


「問題ないさ、見ただろ? 俺の能力。俺は勝負には絶対に勝つ。相手がどんな能力を持っていようが関係ない。俺はこの能力を使ってこの世界で勝ち続ける。まずはお前の国を手に入れる。そして世界を手に入れる」


「そんなことはさせないよ。ボクはこの国が好きなんだ。この国は絶対に渡さない」


「そうか。俺の仲間になりたくなったらいつでも言ってくれ。俺はお前が気に入ったから」


「そっちこそ。ボクたちの仲間になりたいのならいつでも来たら良いよ。しばらく牢に入ってもらうかもしれないけどね」


「そりゃ楽しみだ」


 そう言ってシューマは自陣の方へと帰っていった。





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