表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/80

3-10,シューマとの勝負

【これまでのあらすじ】

 村の小さな少女タルトは森で異世界人の高校生の安藤夏樹ナツキと出会う。ナツキの周りには何故か美少女が現れないので仲間を探すために人がたくさん集まる王都にいく。

 そこで異世界人の今川凛冬リントと国王である佐藤るい(ルイ)たちと出会い彼らも助けることを決める。

 トワイローザ王国は隣国アルムス王国より戦争を仕掛けられており国王であるルイはその対応に追われていた。国力で大幅に勝っているはずなのに何故かトワイローザは戦いに敗け続けているという。その原因を探るためにタルト達は戦争の前線に赴いていた。戦いに敗けた後、タルトは敵の将軍シューマに呼び出された。


 シューマ将軍からの要求は「前回の会議を行った場所にボク一人でこい」とのことだった。

 罠であればもちろんボクは殺されるだろう。だけどわざわざボクを呼び出して殺すなんて面倒なことをする価値がボクあるわけもなく、わざわざボクを呼び出すってことは「異世界人」に関することだと思う。とは言ってもボクが異世界転生についてなにか知っているわけじゃないんだけど、大丈夫かな。

 ガトー将軍は護衛をつけると言ったし、ナツキとリントもついていくと聞かなかったが、それでクレアを殺されるわけにいかないからと、ボクは要求通り一人で指定の場所へ向かった。


 指定された場所にシューマ将軍は一人で来て待っていた。

 ボクはゆっくりと彼に近づく。辺りを確認する。特に人の気配は感じない。


「安心しろ。兵は連れてきてはいない」


 シューマは大げさに両手を広げてみせる。腰に剣は携えているが、それ以外には特に武器のようなものも見当たらない。ボクはダガー二本を装備したまま。

 相当な自信。だって、ボクが異世界人のことを知っているということは、ボクの周りに異世界人がいるということなのに。

 それでも一人でやってこれるなんて。よほど強力な能力をもっている? そう思わせる作戦? だめだ。情報が足りない。こう思わせるのも作戦かもしれない。こいつは、ナツキやリントとは違って頭脳派タイプなのかも。


「俺は話をしたいだけだ。危害を加えるつもりもないし、話が終われば女剣士も返してやる。そんな警戒するなよ」


 シューマ将軍は会議のときとはまた違う雰囲気だった。まるで友達にでも話しかけるような口調で話してくる。すごくやりにくい。


「そんな話信じられないね。君は約束を破ったばかりじゃないか」


「ははは。約束ね。俺にとっては約束なんてどうでもいい。だが、お前には他に選択肢などないはずだ。あの女がどうなってもいいというのなら好きにしたらいい」


 焦っちゃダメだ。また失敗する訳にはいかない。ここは冷静に話を進めなくちゃ。落ち着くんだ。


「……捕虜の扱いに関する条約を知らないのかい?」


「知っているさ。だからなんだ。他の国にでも言いつけてみるか? お前も薄々わかってるんじゃないのか。俺はこの戦いなんてどうでもいいんだよ。俺はこの世界の人間じゃないからな」


 認めた。異世界人だ。わかってたけど。異世界人にこの世界やこの国のことを話したところで噛み合わない。今はまずは相手の目的を知ること。クレアを助けることを優先しないと。


「だったら、ボクに一体何の用なんだよ」


「せっかちなやつだな。話をしたいと言っただろう」


「じゃあ話を聞こうじゃないか。条約違反まで犯してボクを呼び出して、いったい何を話したいというのさ」


 シューマ将軍は緩んでいた顔に力を入れてこちらをまっすぐに見つめて聞いてきた。


「お前は異世界のことをどれくらい知っている?」


「なんのこと?」


「今更とぼけるなよ」


「……異世界なんてボクは知らない」


 実際には本当のことだ。ボクは異世界のことなんてよくわかってない。ただまあシューマが聞いているのはそういうことじゃないのはわかってるんだけど。


「……じゃあ、勝負をしないか?」


 シューマ将軍から意外なセリフが飛び出した。


「勝負?」


 身構える。なんの能力もない異世界人が相手ならやれなくはないかも。見た感じ、こいつも身体能力が高そうには見えないし。だけどなにか能力を持っていたりするのなら、魔法すら使えないボクには勝ち目はない。


「まあ落ち着けよ。殺し合いをしようと言っているわけじゃない。ただの「勝負」だ。お前が勝てば女剣士を返そう。俺が勝てばお前は知っていることを俺に話す。悪い取引じゃないだろう?」


「悪い取引だよ。ボクみたいな小さな躰相手に勝負だなんてさ、常勝将軍ってのもたいしたことないんだね!」


「勘違いするな。勝負の内容はお前が決めて良い。俺は剣で撃ち合っても構わないが……」


 勝負内容をボクが決めるだって? 一体どういう意味だ。何のつもりなんだコイツ。


「どうした? やらないのか?」


「……いいよ、やってやろうじゃないか。本当に勝負内容はボクが決めて良いんだよね? 後からやっぱなしとかは、なしだよ」


「そんな事は言わない」


「じゃあここにあるリンゴを……」


「待て。そのリンゴはどうした? どこから出したんだ? それになぜ持ち歩いている?」


 ボクは走ってシューマから距離を取り、一度振り返った後、念のためにさらに距離を取ったところにある木の枝の上に置いた。そしてシューマのもとに駆け戻った。

 腰からダガーを一本抜いて、刃の方をつまんで、グリップ側をシューマに差し出す。普通に考えれば自分の武器を相手に渡すなんて自殺行為だけどシューマがボクを殺すつもりならとうにやっているはず。だから大丈夫だと思った。


「そこからこのダガーをあのリンゴに当てることが出来たら君の勝ち。当たらなかったらボクの勝ち。これがボクの提案する勝負内容だ!」


「おいおい勝負なんだからお前も投げるのが普通だろ。これじゃあ勝負というより、試験じゃないか」


「内容はボクが決めていいって言ったじゃないか。ほれ」


 シューマはダガーを受け取り、豆粒のように小さくなったリンゴの方を向く。ボクのダガーよりシューマの剣の方が当てにくいだろうし、そっちでやらせてもよかったのだけど、ボクの持ち物の方が小細工が出来ないと考えたんだ。

 この距離で、しかも他人の武器で一発で当てるなんて絶対にできるわけない。そもそもリンゴまで届かせることが難しい距離だ。


「それともやめとく? どうしてもって言うならチャンスは二回にしてあげてもいいけど」


 もう一本のダガーをくるくると回しながら挑発してみる。二回どころか百回やったって当たるわけない。


「いや、一回でいい」


 そういってシューマは受け取ったダガーを何の躊躇もなく投げた。投げ方は完全にど素人。やっぱり異世界人は身体能力というかこういう「技術」をもたないようだ。それでもダガーはリンゴの手前ほどまで飛んでいったが、リンゴまでは届かずに手前の地面に突き刺さった。

 もしかしたらなにかの能力を使うのかと思ったし、それなら能力を見極めるチャンスだと思ったんだけど、能力を使う様子もなかった。

 今回の勝負はあっけなくボクの勝ちで終わった。

 天候を変えるような能力ではこの勝負はどうしようもないだろうしね。


「はい、ボクの勝ち。約束だからね。じゃあ早速クレアを返してもらおうか」


「まあ、待て」


「やっぱなしはなしって言ったじゃないか。また約束を破る気? やっぱり君はそういう卑怯者なんだね。ねえ、恥ずかしくないの?」


「お前……こんな不公平な勝負をけしかけておいて、よくそこまで言えるな」


「ふん。なんとでも言うがいいさ。君が言い出したことじゃないか勝負の内容はボクが決めていいってさ。自分が言ったことくらいは守りなよ」


「そうだな。じゃあ守ってもらおうか」


「守ってもらうって、守るのは君の方……」


 シューマは指を指していた。指の先を見た。指はリンゴを乗せた枝をまっすぐに指していた。


「あ!」


 リンゴが乗った枝の上にリスが現れた。そのとてもかわいいリスさんはリンゴを枝から落としてしまったよ。落ちたリンゴはころころところがってダガーの刺さっている場所まで転がって、ダガーにあたって止まったよ。ってそんなばかな。


「俺の、勝ちだな」


「あ、あんなのダメだよ。だって、だってほら、ダガーが刺さってないじゃないか!」


「お前はダガーがリンゴに当たったら勝ち、と言っただろ」


「そ、そうだったっけ……?」


 つい目をそらしてしまった。


「たしかにそう言った。あと、自分が言ったことくらいは守れ、とも言ってたな」


「そんなことも言ったっけ……?」


「やっぱなし、はなしだったか?」


 にゃああああ!

 嘘だ。こんなの偶然じゃないか。リスがくるなんて予想できる? いくら異世界人だからってそんな都合のいいことありえる? まさか、動物を操る能力でも持っていたということ? でもあのとき急に雨が降り出したのはどう説明する? なにか魔法でもつかったのか? いや、そもそも勝負の内容を決めたのはボクだ。


「も、もう一回……」


「なに?」


「もう一回! 一回勝負とは言ってないもん!」


「なんだそりゃ。お前、そんな卑怯なこと言いだして恥ずかしくないのか?」


「ぐ……き、君には言われたくないね! 今のは偶然じゃないか。まぐれでしょ。だからもう一回!」


「いいぞ」


「もう一回だけいいじゃんケチ! って、え? いいの?」


「いいぞ。だが、これで最後だ。三回勝負はなしだ。めんどうだからな」


「わ、わかってるよ。じゃあ次はこのイチゴを……」


「待て。そのイチゴはどこから出した? なぜ持ち歩いている?」


 ボクはさっきよりもさらに遠くにある木を探して、枝に差し込んだ。こんどは落ちないように。しかもちょっと狙いづらい位置に。

 それからシューマのもとに駆け戻った。シューマは呆れた表情でボクを見下ろしてきた。


「ほい。ダガー。あ、こんどは刺さったら勝ちだからね。当てるだけじゃダメだから」


「お前……見た目はかわいいのにやることは全然かわいくないな……さっきのリンゴより小さい的にした上に刺せとは……」


「う、うるさい! さあやって。これで刺さらなかったらクレアを返してもらうからね!」


「いいぜ」


 またシューマは受け取ったダガーをたいして躊躇もせずに放り投げる。やはり先程と同じように素人投法のダガーは放物線を描いて、目標のかなり手前で落ちて、地面に突き刺さった。


「やったぁ! ボクの勝ち! もうリスは出てこないよ。さあクレアを……」


 シューマはまだイチゴの方を見ている。まさか。またリスでも出てくるっていうのか?

 イチゴの方を見てみると、鳥さんが一羽飛んできた。かわいい鳥さんはボクが枝に刺したイチゴを加えて飛び立つ。これじゃさっきと同じ展開になる!


「わあああああああっ!」


 大声を出して鳥さんを驚かせた。慌てた鳥さんは加えたイチゴを落としてしまう。これならダガーの落ちているところまで届かない。ざまみろ!


「やった!」


「そこまでするか……」


 でもそこに突風が吹いて、イチゴの落下の軌道が変わった。結局、イチゴはダガーの上に落ちたように見えた。だけどダガーは刃を下に向けて刺さっている。刺さるはずがない。

 ボクは急いでダガーを確認する。

 ダガーの持ち手の部分にイチゴが潰れるようにして「刺さって」いた。ボクのダガーの柄の形状がたまたますこし尖っていたから。


「勝負はダガーに刺さったら、だったな?」


 ダガーの刃には刺さらなかったが、たしかにダガーには「刺さって」いる。卑怯な条件を突きつけまくった手前さすがにこれ以上ゴネる気にはなれなかった。


「嘘だ……」


「これで俺の勝ちだ。さあ、話してもらおうか」


「……なにをしたんだよ……絶対何かずるしただろ!」


 呆れたようにため息を付きながらシューマはゆっくりと歩き出す。さっき投げたもう一本のダガーとその横に落ちていたリンゴを拾い、そしてボクの方へ戻ってきた。


「お前の決めた勝負内容で、お前の渡してきたダガーだろ。それにお前も全て見ていたはずだ。後、お前さ、邪魔もしてたな。ありゃ反則だろ」


「だって、こんなのって……おかしいじゃないか……突風まで起こせるなんて……うっ」


「お、おい、泣くなよ……」


「泣いてないし……」


「はぁ……わかったよ。お前が話を聞かせてくれたらあの女剣士は還す。それでいいか?」


 シューマはダガーとリンゴをボクの前に差し出しながら言った。


「……ほんと?」


「本当だ。だから泣き止め」


「……わかった! それで? 何の話をすればいいんだっけ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ