3-4,出撃準備
【これまでのあらすじ】
村の小さな少女タルトは森で異世界人の高校生の安藤夏樹と出会う。ナツキの周りには何故か美少女が現れないので仲間を探すために人がたくさん集まる王都にいく。
そこで異世界人の今川凛冬と国王である佐藤るい(ルイ)たちと出会い彼らも助けることを決める。
トワイローザ王国は隣国アルムス王国より戦争を仕掛けられており国王であるルイはその対応に追われていた。国力で大幅に勝っているはずなのに何故かトワイローザは戦いに敗け続けているという。その原因を探るためにタルト達は動く。
ルイはロアの復帰のことをあっさりと承諾してくれた。
ルイからまたトラブルに巻き込まれるといけないからとクレアを付き添いにつけてもらい、ボクは一緒に騎士団本部へ向かった。
王宮を出る途中の城門でさっきのピカピカ衛兵を見つけた。特に処分などはなかったようで、もう通常業務に戻れたようだ。よかったよかった。
ピカピカはこちらに気づくとすごく力強い敬礼をしてきた。背筋を伸ばしすぎて反り返って後ろに倒れそうな勢いだ。
ボクも真似をして敬礼を返したら嬉しそうに笑ってた。できればあのピカピカ衛兵とは一度ゆっくりとお話してみたいな。
騎士団本部に再びやってきた。改めて見てもでかい建物。その入口の前に黒髪の男が二人つっ立っている。きっと薄情な連中に違いない。
ナツキとリントはボクの姿を見つけると慌てて駆け寄ってきた。
「ごめんってタルトっち」
「悪りぃ」
そろってバツの悪そうなニヤケ顔。何笑ってるんだよ。ぶっ○すぞ。
こいつらが気づいてくれなかったせいでボクは牢にまで入れられたのだ。
こいつらをどうしてやろうか、リントはあとで国家反逆罪で牢にぶちこむとして、ナツキの方はどうするか考えておくのを忘れてた。ロアとのことで忙しかったし。
ボクは二人を睨みつけて
「……どちらさまですか?」
できるだけ冷たく言ってやった。ニヤケ顔から血の気が引いていく様子がみてとれた。
「お、おいおいそりゃないっすよ!」
「タルトすまなかった! 許してくれ!」
ボクは無視して通り過ぎてやる。二人が必死に謝りながら追いかけてくる。二人の慌てようを見て少しだけ溜飲が下がったけど、まだまだ。きょう一日くらいは必死にご機嫌を取ってもらわなくちゃね。
その日の夜。
騎士団の視察を終え、食事のあとで黄金の間に集まり、今日のことについて話した。
相変わらずギラギラと金色の装飾に頭がくらくらする。二人はよくこんな部屋で寝られるな。
「ねえ、集まるの、他の部屋にしない?」
なんとなく提案してみた。するとすぐにルイが答えてくれる。
「会議室もありますよ。ご用意しましょうか?」
黄金の間の手前の金色のベッドにリントとナツキが座り、奥の黄金のベッドにボク、ルイ、クレアが座る。クレアとボクはさっき一緒にお風呂に入ったばかりだ。
「なんでっすか? 移動しなくて済むし、ここでよくないっすか?」
リントはこの部屋をやたら気に入っているようだからこの眩しい装飾は気にならないのだろう。まあ、リントの言うことも間違ってはいない。この客室は王宮の中でも奥まったところにあるのでルイを呼んで話をするのには向いている場所と言える。
だけどね、何もかも金色だらけでいまいち話に集中できないのだ。
「ギラギラしててなんだか落ち着かないんだけど……」
「だったらタルトっちの部屋でやる? 俺はそれでも全然かまわないっすよ」
「それは嫌」
即答した。あの部屋はクレアにお願いして少しずつ模様替えをしていき、紫の装飾を薄い緑などの目に優しい色に変えたり、それなりに居心地が良くなってきているのだ。「自分の部屋」それも、お風呂上がりの部屋はなんとなく見られたくないというのもある。男どもに踏み荒らされるのはゴメンなのだ。
「じゃあここでいいじゃないっすか」
「タルト、部屋の掃除なら手伝うぞ」
男どもに自分の部屋を荒らされるくらいならここで我慢する。
「ありがとうナツキ、お掃除はクレアがやってくれてるし大丈夫だよ。じゃあさっそく今日の調査結果から。騎士団の訓練を見た限りではなにもわからなかった。少なくとも不真面目とか手を抜いているとかそういうものは見られなかった。むしろ士気は高かったし、ボクからみたこの軍は規律も練度も十分に高く見えた」
ナツキとリントも同意した。クレアも頷く。大臣もそうだったがルイが王になったからといって周りの中世などは崩れてはいない。ルイの能力、絶対王政は王であることはやめられなくても、王であるということに関してはしっかり働いているようだった。
逆に言えば絶対王政がある限りは国内での問題は起こりにくいとも言える。もちろん完全に信用できる能力と言うにはまだ時間が足りないけれど。
「軍には問題がない。ということは、敗けている原因を探るには実際に戦っているところを見るしか無いと思うんだ」
「それは危険すぎます。絶対ダメですよ!」
ルイがボクの服をつかんで必死な顔で止めてきた。
戦場に行くのはたしかに危険。ボクたちだけが被害を受けるだけならまだいい。最悪、足手まといになる可能性だってある。
それでも、ボクたちにできることはやっておきたい。このまま王宮で過ごしていても、気をもんでせっかくの豪勢な食事も美味しく食べられないし、お風呂もゆっくり入れない。こんな夢みたいな生活が始まったというのに満喫できないのはもったいない。なんていうのは理由の一つに過ぎなくて、やっぱりルイのちからになりたいという思いは止められそうにないから。
「ルイだけにすべてを押し付けるなんて出来ないよ。ボクだってこの国の人間なんだしこの国のために出来ることがあるのならやりたい。危険だってそれは戦っている兵士だって同じだよ」
「でも、タルトさんたちは軍人じゃないし、タルトさんに何かあったら僕は……」
「あの、俺とナツキっちのことはどうでもいい感じ?」
リントがなにか言っているけどルイはボクから視線を外さない。袖も離してくれない。目をうるうるさせて見上げてくる。この目は反則だ。
「大丈夫。戦うために行くって言ってるわけじゃないよ。できるだけ安全なところから様子を見てくるだけだよ。それにナツキだっているし。焼かれても死なない不死身の異世界能力者だよ」
「……俺は?」
リントはしつこく食い下がるがルイは相手にしない。と言うより多分聞こえてすらいない。
「わかりました……じゃあ近衛騎士団と親衛隊に警護させます。あと第一軍の精鋭部隊も……」
「ルイ、それじゃ足を引っ張ることになるよ。大丈夫、と言い切る自信はないけど、これでもボクはけっこう修羅場をくぐってきたほうなんだぜ?」
「じゃあせめてクレアをつけさせてください。クレアはこの国でもトップクラスの剣の腕を持っています。これ以上は譲れません」
「仕方ないね。クレア、お願いしてもいいかな?」
「もちろんです。タルト様のことは命に代えてもお守りいたします」
「命に代えちゃダメ。全員で、絶対に生きて帰ろうね」
こうして、次の戦いのための遠征軍にボクたちはついていくことが決まった。
次の日。
ボクたちは六人乗りの軍用馬車を貸してもらった。手綱はクレアがとってくれた。前線に向かう遠征軍の中に混ぜてもらった。ボクもうまくはないけど少しくらいなら馬車を│御することもできるのだけど、クレアが自分がやるといって譲ってくれなかった。
「タルト様。その節はお世話になりました」
王都を出る準備の途中に声をかけられた。ロアが見送りに来てくれた。
ボクは荷台へ荷物を乗せる作業を中断して、ロアの元へ駆け寄った。
ロアは大臣に復職できたようで、大臣らしく毛皮のついたマントに高級官僚服、髪も綺麗にまとめられ髭もきれいに剃られていて牢のときとは別人だ。やっぱりこうしてみると若い。三十代前半くらいに見える。実は、正直に言うとロアの見た目はけっこう好みのタイプなので彼と話すのはちょっとだけ楽しい。みんなには絶対に言わないけど、クレアには言ってもいいかな。
「ロア……じゃなかった大臣! お見送りに来てくれたの?」
周りには遠征軍が集まっている。しかも大臣が派手な格好なので周りの兵士たちからも注目を浴びまくっている。「おい、みろ大臣がいるぞ」「あのチビは何者だ?」「なんで大臣がこんな場所に?」と、ざわつき始めている。そんなところで呼び捨てはさすがにまずいよね。もう牢仲間でもなく大臣なのだし。あと、チビって言ったやつの顔は覚えた。
ロア大臣は周りのことなどは気にしてないようにボクから視線を外さないまま答えた。
「はい。お礼を申し上げておきたくて参りました。タルト様のおかげで職務に復帰することができました」
「よしてよ。お礼ならルイに言って。ロアをまた大臣にすると決めたのはルイなんだし、それだけ大臣がルイに信用されてたってことだよ」
「タルト様には感謝してもしきれません。このご恩はいつか必ずお返ししたいと存じます」
「いいってば! それはルイにお願いね。クレアを連れて行っちゃうからルイの事が心配なんだ。クレアがいない間ルイのこと支えてあげてくれる?」
「もちろんです。陛下と王都のことは私にお任せください」
「うん。じゃあボク、行ってくるね」
「お気をつけて。そうだ。敵の将軍には注意なさってください」
「敵の将軍に?」
そりゃまあ気をつけるのは当たり前なのだけど、なぜわざわざ言うのかが引っかかった。
「はい。敵の将軍はこれまでの戦いで一度も負けたことがないと言われております。実際に我軍は敵の将軍の軍に一度も勝てておりません。大変危険な相手です。万が一にも出会わぬようお気をつけください」
「わかった! アドバイスありがとう! じゃあ行ってきます」
「ご武運を」
大臣が頭を下げてボクを送ってくれている様子を見てまた周りの兵士たちがざわめいた。
「だ、大臣からまた頭を下げらているなんて……」
「何者なんだあの子どもは……」
「バカよせ。無礼だろ。どこかの貴族じゃないか」
「あの格好、あの子どもも今回の遠征に参加するのか?」
「かわいいな、あの子」
「よせって。死刑にされちまうぞ」
すごくくすぐったいけどわざわざ大臣とボクの関係を説明するのも変なので黙って馬車に戻ろうとしたところで聞き覚えのある声が聞こえた。
「あの方はタルト様というんだ。陛下のご友人で、大臣の恩人でもあるんだ」
声のする方を見ると、あのピカピカ鎧の衛兵がだった。彼も今回の遠征に参加するようで、今日はピカピカの鎧に加えて遠征用の荷物や武器などの装備を身に着けている。ボクに向けてまた敬礼してくれていたので、ボクも走りながら敬礼を返しておいた。
「お、おい! お前、なんであの方と知り合いなんだ!」
「ずるいぞ!」
「へへへ。俺とあの方との間には色々あったんだよ」
そんな会話を背中で聞きながら馬車に戻る。確かにあのピカピカ衛兵とは色々あったな、なんて思い出しながら。
そして出撃の笛がなった。




