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3-2,ピカピカの鎧

【これまでのあらすじ】

 小さな村の少女タルトは森で異世界人の高校生の安藤夏樹ナツキと出会う。ナツキの周りには何故か美少女が現れないので仲間を探すために人がたくさん集まる王都にいく。

 そこで異世界人の今川凛冬リントと国王である佐藤るい(ルイ)たちと出会い彼らも助けることを決める。

 トワイローザ王国は隣国アルムス王国より戦争を仕掛けられており国王であるルイはその対応に追われていた。



「ルイはああ言ってたけど、二人はどう思う?」


 ボクたちは美少女探しに行く気にもなれず、黄金の間に集まった。


「なんとかしてやりたいのは多分皆同じだろうけど問題が大きすぎるな」


 ナツキの言うとおりだ。問題は国家間の話であって一個人やパーティが関与できるようなものじゃない。ただ、危機的状況ではあるけれど絶望的状況というわけでもなさそうだった。


「でもさぁ、なんかおかしくないっすか?」


 リントが向かいのベッドの上でいつになく真剣な面持ちで言う。こんな顔もできたんだね。


「何がおかしいの?」


「九回も戦って一度も勝ててないのに将軍が生き延びてるっておかしくないっすか。いや、無事なのはいいことなんだってわかるっすけど、ありえるんすかね。手抜いてるんじゃないっすか? まあ、王様があんなのだったらいくらでも誤魔化せそうだし」


 あんなの、とか言うな。でもリントの言うことはもっともでもあるし、引っかかっていたこと。いまいちよくわからない。それだけの数戦って国に影響がほとんどないことなんかも。戦争って言っても実は殺し合いとかではなく、スポーツみたいな感じで行われているとか? そんなバカな話は聞いたことはない。ルイはたしか事故などが起きて何故か敗けるとか言ってたっけ。


「実際、九回も戦ってしかも全部敗けてなお余裕があるくらいの兵力っていうか国力があるわけっしょ? 相手の国もそんなにでかいわけじゃないんだったら国中の全部の軍隊つっこんで相手の国を全力で叩き潰しちまえば良いんじゃないんすかね?」


 さっき将軍が敗けて帰ってきたって言ってたからもう十回だけどね。

 リントが言いたいこともよく分かる。だけど戦争素人なのでなんとも言えない。他の国から攻撃されるリスクもある。


「全ての軍を出すわけにはいかないと思う。っていうかすでにやったんじゃないか。それに、仮に全軍を投入して、それで敗けたりしたら、そんときは国が滅ぶ。リスクがでかすぎるんじゃないか。」


「じゃあナツキっちはどうすりゃいいと思うんすか? こんだけ余裕があるのにちまちま戦って敗け続けるのがいいっていうんすか?」


「そうは言ってない。このままじゃダメなのはわかってる。だからといって無理をすればそれこそ相手の思うツボかもしれないだろ」


 二人の語気が荒くなっていく。止めなくちゃ。


「ちょっと二人とも、ボクたちが言い争ったって仕方ないよ。一旦落ち着こう」


「……すんません」


「いや、俺もだ。わりぃ」


 ナツキもリントもなんとかしてあげたいと思って焦ってるんだね。ボクだってルイのためになにかできることがあればしてあげたい。

 ルイはあんなに健気に戦ってると言うのにボクたちはただ見てるだけしかできないなんて。一市民にできることなんて限られているのだから悩んでも仕方ないのだけど、本当にボクたちにできることはないのかな。


「ねえ、なんで勝てないのかな? ボクは戦争がどんなものか知らないからよくわからないのだけど、ちなみに君たちの故郷では戦争ってどんなものだったの?」


 二人は顔を見合わせて、頭をかしげてうめきつつ悩みだした。思い当たらないらしい。


「うーん……どうだろう。俺も、たぶんリントも戦争は体験はしてない。だけど戦争を全く知らないってわけじゃない。俺たちの国だって昔は戦争を何度か経験してるからな。だけどこの世界の戦争となると戦車や戦艦が出てくるわけじゃないだろうから……そうだなあ……」


「戦国時代くらいのイメージじゃないっすかね」


「そうだな。戦国時代の場合は川中島の戦いみたいな感じなら何度か戦ったというのも聞いたことがあるけど、あれは両者の実力が伯仲していたのもあるし、それでもせいぜい五回だ。九回……じゃなくて十回も戦って敗け続けたっていうのは、聞いたこと無いな。なにか裏があるとしか思えない」


 ナツキの世界でも戦争は行われているのか。ナツキの世界はこの世界よりも進んでいる世界だと思っていた。その世界ですらも戦争はなくなっていないのなら……この世界の未来がナツキたちの未来と同じとは限らない、か。気を取り直して。

 フィオーレ王国がアルムス王国に敗け続けているのにはなにか原因があるはず、というのがボクたちの共通認識だ。世界をまたいでの。


「俺は軍が怪しいと思うっすよ。やっぱりあの将軍とか怪しいじゃないっすか」


 話を聞いているだけなら確かに怪しいと言える。だけど何が起きているのか見たわけでもないので決めつけるのはまだ早すぎる。とは言え、怪しいのは怪しい。


「ねえ、ボクたちで調べてみることはできないかな?」


「調べるって、なにを?」


「軍とか戦いの様子をさ。ルイは国王だしクレアはルイの護衛で王宮を離れられない。ということは戦いの内容は全て人づてに報告を受けているだけだと思うんだよ。だったらボクたちがそれを調べてみるというのはどうかな」


 ルイにとって信用できる相手はクレアとボクたちしかいない。ボクたちが調べてみることでルイも疑心暗鬼にあったりせずに済むだろうし。


「確かに……それくらいなら俺たちにもできるかもしれないな」


「いいっすねそれ、さすがタルトっち!」


 何も戦うことだけがルイを助ける唯一の手段なわけじゃないよね。ルイを安心させてあげることだってルイの手助けになるはず。だったらボクたちがルイの代わりに直接見るってだけでも力になれるかもしれない。



 ボクたちは早速クレアにお願いして、軍の訓練の様子を見学させてもらうことにした。もちろんボクたちは素人なので訓練の様子を見たくらいで軍の強さが測れるわけでもないのだけど、真面目にやっているかどうかくらいはわかるかもしれないし。

 軍は騎士団で構成されているということなので騎士団本部にある訓練場へ向かうことになった。あそこはナツキが処刑されそうになった嫌な思い出があるからできればあまり近づきたくはなかったのだけど。

 ナツキの方はというとあんなことがあったことを忘れているかのように、リントと二人で楽しそうにおしゃべりをしながらボクの前を歩いていた。ナツキが気にしていないというのならそれはそれで良いんだけど。

 それにしても、あの二人はほんとに仲がいい。同じ部屋で寝泊まりするほどの仲だしね。後ろから見ていると同じ黒髪だし兄弟か何かに見える。こうして並べて比べてみるとナツキはちょっと体格ががっしりしてきたね。リントはナツキより頭半分くらい身長が高いけど細すぎて弱そう。というか絶対弱い。そのうち鍛えてやらないとな。

 そんなことをぼーっと考えながら歩いていると、王宮の城門を出ようとしたところで衛兵が慌てて駆け寄ってきて、声をかけられた。


「おい君! どうやってここに入ったんだ!」


 衛兵はピカピカに磨かれた甲冑に身を包んでいる。このピカピカには見覚えがある。


「あ!」


 こいつはボクが始めて王宮へ来た時になんとかポイントが足りないとかいって追い返してきたやつじゃないか。田舎者だと思ってバカにされたことは忘れてない。こいつのせいでボクはナツキに抱えあげられるという屈辱を味合わされたのだ。


「おや、君はあのときの子じゃないか。ここは子どもの遊び場じゃないといっただろう? それにその服はどこで手に入れたんだ。上級士官服じゃないか。まさか盗んだのかい?」


 いきなり犯罪者扱いをされて頭に血が上ってしまい、ボクも応戦する。


「残念でした! 勝手に入ったわけじゃないですぅー! ルイ陛下に呼ばれてきたんですぅー! これもルイ陛下にもらったんですぅー!」


 ボクは服を引っ張って見せつけてやった。だけどピカピカは疑いの目を向けてくる。


「そんなことあるわけないだろう。勝手に城内に入るなんて、しかも盗みまで働くなんて……今度は遊びじゃ済まされないからね。一緒に来てもらうよ」


 あっさりと否定。かけらも信用してもらえなかった。

 ピカピカはボクを後ろから羽交い締めにして抱えあげる。身長差のせいで足が地面につかない。


「あ、やめろ! 離せ! ちょっと言ってやって! ナツキこいつに言ってやってよ! ねえナツキ! え? ナツキ?」


 ナツキとリントは城門をスルーしてさっさと通り過ぎ、はるか遠くで談笑する後ろ姿が見えた。王宮で用意された立派な服を着ているうえ、王宮内部から外へ出る人間なのでノーチェックだった。

 あいつら、ボクが掴まってることに全く気がついてない。嘘でしょ。


「ちょっと待って。ほんとに違うの! ルイに、ルイに言えばわかるから!」


「国王陛下を呼び捨てにするとはなんと無礼な……これはお仕置きが必要だね」


「だから、ホントなんだよ。ちょっと、気安く触らないで、持ち上げないで。あ、やめて、クレアー! 助けてクレアー!!」


「こら、暴れるんじゃない!」


 ボクの抵抗は虚しく空を切り続け、情けなく抱えあげられたまま城門の外側に併設されている建物に連れて行かれ、そこの職員であろう衛兵たちにかわそうな人間を見る目で見られる頃にはぐったりした大きな猫状態になったまま、建物の地下にある牢屋のような場所に入れられてしまったのだった。

 覚えてろよナツキ、リント。絶対に許さないから!




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