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3-1,守りたいもの

【これまでのあらすじ】

 村の小さな少女タルトは森で異世界人の高校生の安藤夏樹ナツキと出会う。ナツキの周りには何故か美少女が現れないので仲間を探すために人がたくさん集まる王都にいく。

 そこで異世界人の今川凛冬リントと国王である佐藤るい(ルイ)たちと出会い彼らも助けることを決める。

 トワイローザ王国は隣国アルムス王国より戦争を仕掛けられており国王であるルイはその対応に追われていた。




 翌日、ボクたちはクレアを通して午前の政務を終えたルイに謁見を求めた。何をするにしてもしないにしてもまず情報を仕入れなくては。ルイからの返事は「昼食を一緒に取りたい」と言うものだった。

 昼食は青空の見える美しい王宮のテラスで行われた。メンバーは晩餐のときと同じボクとナツキとリントにルイの四人。今回は小さめのテーブルだったので晩餐の時みたいに持て余すということもなかった。

 クレアが軽食を運んでくれつつ昼食会が始まった。


「今この国、トワイローザ王国は西にある隣国アルムス王国に侵略されているんです。僕が即位したタイミングで宣戦布告されちゃいました。王権交代後の政情不安定な隙を狙ったんでしょうね」


 ルイはいつも通りの調子で教えてくれた。「されちゃいましたー」なんて軽いノリで受けるものではないと思うけど。

 それにしても知らなかった。侵略されていたのかこの国は。だけどほんとに戦争の影響が国の中で見られない。そもそも戦闘は行われているのだろうか。


「こちらも迎撃すべく軍を出動させたんですけど……実は、今まで一度も勝てたことがないんですよね」


 戦闘は行われているらしい。しかもすでに敗けているという。それでよく国がもっているな。ルイの力……ではないよね。ルイは「よくわからなかったから死刑」とか言っちゃう子だし。どうやって運営しているんだこの国は。


「なあタルト、相手の国はそんなに強い国なのか?」


 ナツキが砂糖なしの紅茶を飲みながらボクに聞いてきた。


「うーん。アルムス王国かあ。この王国と比べればかなり小さな国だったはずだけど、いくつかの国に囲まれているからね、軍事力はそれなりあるはずだけど、それでもトワイローザとは比べ物にならないほど小さな国だよ」


 トワイローザ王国は世界有数の大国だ。広大な国土に加え、安定した気候ゆえの豊かな資源。それに支えられ、人口も多く技術も比較的進んでおり、兵力はかなりのものになるはずだ。それに比べてアルムス王国は数ある小国の中の一つでとてもじゃないがこの王国と戦えるとは思えない。

 アルムス王国はトワイローザの他にもいくつかの国と国境を接しているので交易が盛んであり、正規軍の他に傭兵なども多い国だったはずだ。軍事色の強い国だと走っていたけどまさか大国トワイローザ王国に宣戦布告とは、素人目に見れば自殺行為にしか見えない。

 でも……。言っちゃ悪いけどトワイローザの王がこのルイでは、まともに外交や戦争が出来るわけもない。ルイが悪いわけじゃないんだけれど。


「そうですね。だから大臣や将軍たちもそこまで深刻には考えておりませんでした。敵の倍の数の軍を率いて早々に決着をつけると言って将軍が軍を率いていったのですが、今のところ一度も戦いに勝ってません」


 それは……将軍が無能なのでは?


「ちなみに、何回くらい戦いに敗けたの?」


「もう九回……ですかね」


 ルイはさらりと答えた。


「九回!? 九回も戦ったの? それで全部敗けたの?」


 ルイはさすがに罰が悪そうに頷いた。

 さすがに敗け過ぎでしょ。戦争して、戦いに九連敗? そんな敗けるか? 普通。 アルムスはどんだけ強いんだよ。いやトワイローザが弱すぎなのか!? そもそもそんなに戦いに負け続けてよく無事でいられるなこの国。

 いくらアルムス王国が軍事に特化した国でもトワイローザとは規模が違いすぎるはずなのに。アルムス側も何も考えずに宣戦布告してきたわけではないということなのか。


「や、やばいじゃないっすか!! 敗けすぎじゃないっすか。王都は……この国は大丈夫なんすか?」


 リントにだってわかるくらいのこのあり得ない数字。九連敗は衝撃的すぎる。


「そうですねぇ……大都市はまだ陥とされてはいませんが、小さめの町が五個ほど奪われています。絶対に取り返してみせます」


「ん? まって五つ? 九回も敗けているのにその程度で済んでいるの?」


 どんな戦い方をしているのかわからないけど数が合わない。


「なあ、タルト、町五つって結構やられてると思うんだが、少ないのか?」


 リントはわからないけどナツキはこの国の規模などはわからないので教えてあげないといけないな。


「このトワイローザは王都ロスアブルと副王都ロスアレドの他に、大都市と呼ばれる都市が百ほどあるんだよ。コタン村みたいな小さな村となると数千はあるんじゃないかな」


 ボクは自分の知っているトワイローザについての情報をナツキに教える。まあルイやクレアに聞いたほうがもっと正確な情報がわかると思うけども。ルイの方を見る。


「はい。だいたいそのくらいです。自治区や影響国まで含めるとさらに多くなります」


「まじか……この国ってそんなでかい国だったのか。どおりで王都がこんなに栄えてるわけだ……」


「そう。だから帝国やフィオーレならともかく、アルムス王国にこのトワイローザが敗けるというのがボクには考えにくいんだけど……ルイ、本当なの? 敗け続けてるっていうのは」


 ルイは神妙な顔で頷く。


「兵の数も質も全てこちらが勝っているんですが、何故か敗けてしまうんです。原因は事故であったり病気だったり様々なんですが。幸い、敗けるとはいっても軍の撤退には成功しているので被害が殆どないんです。だから王都にも影響なく戦いを続けられているんです。あ、でも、安心してくださいね! 王国にはまだまだ余力がありますから」


 王国は広大だ。物流も止まっていないしボクたちが旅をしてきた中でも戦争の影響は感じられなかった。余裕があるというのは嘘じゃないと思う。

 だけど、万が一だけどこのまま敗け続けたりすれば、次第に敵の領地が広がっていくのだから、いずれは敗けてしまうということにならないだろうか。いや、その前に全力で叩き潰せばいいのか?

 ルイは精一杯元気に振る舞っているけれど、今日の午前中の会議も大変だったんだろうな。


「お食事中失礼します」


 野太い大人の声が響いた。子どもの声ばかり聞いていたのでちょっとびっくりした。


「おお、戻ったかガトー将軍」


 ルイは王様モードに入った。現れたのは傷だらけの鎧を着た50代くらいのひげの生えた大柄の男の兵士。髪に白いものは混じっているものの筋肉や肌の艶が凄まじく現役で戦う戦士であることが見て取れた。立派な鎧を着ているが、あちこちに傷や汚れがついている。おそらく戦場から戻ってすぐにやってきたのだろう。

 ガトー将軍と呼ばれた男はルイの側までやってきて膝をついた。


「申し訳ございません陛下。この度の戦いも敗れてしまいました」


 ボロボロで泥だらけの鎧を見るにひどい戦いだったことが想像できた。それでも将軍自体にはそこまで大きな怪我はなさそうなのはよかった。


「そうか。しかし将軍が無事で良かった。次の戦いに備え、よく休め。兵たちもしっかりと休ませてやってくれ」


 こうしてみると一瞬ルイが本物の王様に見えた。本物の王なんだけど、今のは仮初ではなく本物の、という意味での。


「ありがとうございます。それでは失礼します」


 将軍は表情は変えなかったが悔しそうな思いはひしひしと伝わってきた。

 実は軍を疑っていた。ルイが子どもだからと軍が手を抜いているのではないか、なんて考えたけど、今の将軍を様子を見てそれはなさそうな気がした。そもそも戦争で手を抜くなんてありえないしね。裏切っているとかでもない限り。


「また、敗けてしまいました。うーん、運が悪いのかな。カイゼル将軍は代々王国に使える軍人の家系で多くの戦いで武功を上げて将軍になった人物なんです。あのカイゼル将軍がここまで勝てない相手とは、一体どんな敵なのでしょう」


 食事は当然中断され静まり返っていた。慌ててルイが


「皆さんはご心配なく! 皆さんに元気をもらえましたから僕もがんばってこの国を守ります。これまではこの国がどうなっても別にどうでもいいやって心のなかで思うこともあったんですけど、今は違います。タルトさんや皆さんがいるこの国を守りたいって、今はそう思えるんです」


 こんなちいさな男の子が国を守るために、他人のために頑張っているというのに。

 ボクたちはこれから異世界人の仲間探し……美少女探しをしに行くというのはすごく申し訳ない気持ちになってしまう。多分ナツキもリントも同じような気持ちでいるとは思う。思うが。

 最初から言っている通りボクたちがどうにか出来る問題じゃない。何もわからないボクたちが余計な首を突っ込んでもかえって邪魔をするだけだ。


 異世界物語らしく戦争に参加する?


 ナツキは少しは戦えたとしても人間が相手でしかも剣士や魔法使いがわんさか出てくる軍隊を相手に戦えるような能力じゃない。リントは論外。お金を作る能力は完全に戦闘には向かない。ボクだって人のことは言えない。ダガーや弓が少し仕えたところで軍人相手になにかできるわけもない。

 悔しいけれど何もしてあげられない。むしろなにもしないのが正解だ。


「ごめんねルイ……」


 謝ることしかできなかった。


「どうしてタルトさんが謝るんですか。僕はみなさんに感謝しているんです。もっとみなさんと一緒にいたいし、皆さんにも目的を達成してほしいです。それにもう今までの僕ではありません。この戦争は絶対に勝ちますから!」


 ルイは笑顔で言った。決して偽りの笑顔とは思えなかった。

 だけどそれが逆に見ていて辛かった。


第三章です。

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