2-14,晩餐会に出席してもいいですか?
【これまでのあらすじ】
小さな少女タルトは辺境の村の森で異世界から転生されてきた高校生の安藤夏樹と出会う。ナツキの周りには異世界転生にはお約束のはずの美少女の仲間がなぜか現れない。そこで、二人は美少女の仲間を探すために人がたくさん集まる王都にやってきた。
そこで新たな異世界人の今川凛冬と国王ルイに出会う。色々あって、ルイの計らいで王宮の部屋を借りることになったタルトたち。ルイはタルトが女の子だということをとあるきっかけで知ってしまう。
その後、タルトたちは王宮で晩餐に招待された。
クレアと入れ替わりでリントとナツキがノックもなしに入ってきた。次からは鍵をかけておこう。
デリカシーがない、と責めたいところだけど、彼らにとってはボクはただの男友達なのだから仕方ない。
今からは「男の子同士」の時間。
「ちょちょちょ、今の誰っすか? めちゃくちゃ美人じゃないっすか?」
「……ボクのお世話係さんになった人だよ」
「ウッソ。なんでタルトっちだけ若くて美人なんすか。俺らの部屋はおばさんのメイドがきただけっすよ。ところで……タルトっちなんか顔赤くねっすか? そういえば……さっきのお姉さんも顔赤かったし。 まさか!」
「バカ! 二人でお風呂に入ってだけだよ」
バカはボクだった。
「え? 風呂? 二人で? どおりでこの部屋なんか良い匂いがすると思ったんすよ。タルトっちあんな美人と一緒にお風呂はいったんすか? 羨ましすぎるっすよマジで!」
「ち、違うよ! 自分で入ったに決まってるだろ!」
「自分で……って、まさか入れてもらったんすか!? それはさすがにやりすぎっすよ。完全に王様じゃないっすか。初日からいきなり絶対王政はさすがにひくっすよ」
「だ、だから違うって! 自分で一人でお風呂に入っただけ!」
「タルトっち……いい匂いさせてるの気づいてないっしょ。風呂上がりのいい匂いっすね……。さっきのメイドさんも明らかに風呂上がりの匂いさせてたっすよ? タルトっちからしてるいい匂いと同じ匂いをね!」
きゃああああああああああ!
「だから違うんだって! ボクが入った後にクレアも入ったんだよ、順番に!」
「へぇ、あのメイドさんクレアさんって言うんすね。メイドさんが仕事中に風呂にはいるわけないじゃないっすか。ごまかすならもっとマシな嘘つかないとダメっすよ」
「それは……!」
だめだ、何を言っても裏目に出る! なんでボクはいつもこうなんだ。落ち着かないとって思うほど焦ってしまって言葉選びを間違える。
「それにもう呼び捨てするような仲とは……まさか事後!?」
「こ、このヘンタイ成金!」
「はははー! 低レベルな悪口でたっすねー! それって負けを認めたようなもんっすよ、タルトっち!」
リントのくせに、リントのくせに、リントのくせにぃぃぃ!
「まあまあ、いいじゃあねえか。タルトだって男なんだしさ」
ナツキの要らないタイミングの、嬉しくないタイプ優しさ。こいつもいつも通り。悪い意味で。
「いいなあ。俺のとこにもクレアさんきてくれねっすかね」
「だから違うんだって。ほんとに違うんだよ! ナツキは信じてくれるよね! ね!?」
「大丈夫だ。俺はいつだってタルトの味方だ。タルトがどこで何してても俺は気にしないよ」
全然大丈夫じゃない! 何もわかってない!
「王様に言えばクレアさん、俺たちのところにも来てくれるっすかね」
「ダメだよ!」
しまった。つい反射的に。
リントは思いっきりいやらしい笑みを浮かべた。
「おやおやおやー。どうしてダメなんっすかね? なにもないなら別にいいじゃないっすか」
「……ルイがクレアはボクの専属にするって、そう、ルイがそう決めたんだからダメ!」
どうしよう。うまい言い訳が思いつかない。このままでは押し負ける。
そしたらリントは急に真顔になった。
「冗談っすよ。タルトっちマジおもろいっすね」
「おいリント。あまりタルトをからかうなよ」
こ、こ、こいつ! ボクの反応をみて遊んでやがったのか。 友達がいないとか言って泣いてたくせに!
「ぶ……ぶ……ぶっ殺してやるーっ!」
ボクがリントに飛びかかろうとしたところをナツキに羽交い締めされた。
リントは腹を抱えて笑ってやがる。
くそ、また裏切る気かナツキ! そういえば君は城門のところでも気安くボクを抱えてたな。まだ根に持ってるんだからな! 許してないからな!
三人で騒ぎまくってたところに、部屋の扉がノックの音が響いた。
入ってきたのはクレア。一瞬ボクたちが暴れまくっていたのをみてかるく目を開いた気がしたけどすぐにいつもの鉄仮面にもどって丁寧に頭を下げた。
「お食事の準備が整いました。食堂の方へお越しくださいませ」
リントは気持ち悪い笑顔でボクを見てくる。絶対仕返しするからな。
クレアは移動中にさりげなくボクの乱れていた服の襟を整えて、髪もきれいにしてくれた。クレア……好き。
晩餐会は「想像通りのやつ」だった。
端から端まで離れたら絶対声が届かないよね、っていうくらい目的不明な作者の心遣いを感じられない長すぎるテーブルにボクたちの食事がずらりと用意されていた。
ボクたちの他にはルイとクレア、料理を運んできた使用人しかいない。全部でたったの五人とちょっと。三十人ほどは腰掛けられるこの長テーブルは明らかに無駄に長い。というか長すぎて逆に不便なだと思うんだけど。
このながーいテーブルってめちゃくちゃ使いづらいと思うんだけど、どうして高貴な方々ってこの長テーブルが好きなんだろ。
ルイは一番遠い、テーブルの端っこに座ってボク達を待ってくれていた。王様を待たせてしまうなんてまずいまずい。でもルイは満面の笑みでボクたちが席に案内される様子を満足そうに眺めていた。
皆が席に着くとルイは立ち上上がって、子どもモードの声で。
「皆さん、お越しいただきありがとうございます! 本日は歓迎の気持ちを込めて美味しいお料理をたっくさん用意させました! お好きなものを好きなだけ召し上がってください!」
え、これ全部ボクたちが食べてもいいの!?
まだ他にも来客があるのかと思ってたけど、ボクたちだけのためにこれだけの料理が用意されたみたいだ。
お肉に大陸都市では貴重なお魚、村ではめったに食べられなかったイースト入りのパン、見たこともない外国産の果物、そして……ケーキ。贅の限りを尽くしましたという料理。
ボクが尻込みしていると、男二人はすでにフォークで肉に飛びついていた。
「うま! めっちゃうまいっすよこれ! ナツキっちも食ってみ?」
「本当だ。うまい!」
部屋の広さが気になって、いまいち緊張は解けていなかったのだけど、朝から何も食べてないボクたちにとってこのごちそうはしんぼうたまらなかった。マナーとかそういうの気にする余裕もなくがっつく。
とにかくまずはお肉だ。ボクだって育ち盛りだからね。これまでは魔物の臭みの強い肉ばかり食べていた。臭いので黒焦げになる寸前まで焼いて食べるから、硬いのなんの。だけど、このは……!
「お・い・し・い~! 生まれて初めてこんなに柔らかいお肉食べたかも。それにこのソースは何? このソースかけたら雑草でも全部美味しくなるんじゃないの。反則だよ。お魚もすごい。骨もないし、脂が乗ってて美味しい! これ海のお魚じゃないの? 久しぶりに食べたけど、お魚もやっぱり美味しいね! もう、全部美味しいよ。ありがとう! ルイ!」
すごい早口になってしまったのを言った後に気づいて恥ずかしくなった。
そんなボクの感想をルイは嬉しそうに聞いて。
「いえいえ! リクエストなどありましたらおっしゃってくださいね。王族が他にいないのでこれでも食費はぜんぜんかかってないんですよ」
王族が他にはいない。それはそうなるか。だってルイは異世界人だものね。
「ってことはルイはいつも誰と食事してるの? クレアと二人? それとも他の使用人さんと?」
「いつもは一人で食べています。クレアは一緒には食べてくれないんです。命令するのも違うと思うし……僕はクレアと一緒に食べたいんですけどね」
あの頑固ものめ。どんな対応だったのか、さっきまでの部屋でのやり取りから想像がつく。確かに命令すれば聞いてくれるだろうけど。よし、こんどどうにかしてクレアもこの席に座らせよう。
「この国に来てからずっと一人ですけど、そういえばこの世界に来る前も病院で一人で食べていましたから、こうして大勢で食事するのは初めてです。だから今ボクはとても嬉しいし楽しいです! 食事って楽しいものなんですね!」
こうしてボクたちはテーブルに並べられた大量のごちそうを口いっぱいに頬張りながら晩餐会は進んでいった。
ボクは男の子たちがなぜかあまり手を付けないケーキをとりあえず全種類食べることを目標にもくもくと食べていた。ケーキでお腹を一杯にするなんていうチャンスはもう二度とないかもしれないからね。




