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2-13,金髪美少女がメイド剣士でもいいですか?

【これまでのあらすじ】

 小さな少女タルトは辺境の村の森で異世界から転生されてきた高校生の安藤夏樹ナツキと出会う。ナツキの周りには異世界転生にはお約束のはずの美少女の仲間がなぜか現れない。そこで、二人は美少女の仲間を探すために人がたくさん集まる王都にやってきた。

 そこで新たな異世界人の今川凛冬リントと国王ルイに出会う。色々あって、ルイの計らいで王宮の部屋を借りることになったタルトたち。ルイはタルトが女の子だということをとあるきっかけで知ってしまった。ルイはタルトのために専用の付き人を用意することを提案する。



「クレア! 入れ!」


 王様モードの声でルイが扉の方に向かって叫んだ。扉がゆっくりと開かれた。すでにその女性使用人とやらを待機させていたらしい。


「失礼します」


 扉を開けて入ってきたのはメイド服を着た女の子。軽く頭を下げたあとルイの隣にやってきて、また軽くお辞儀をした。

 背が高く、歳はボクと同じかちょっと上か。金髪は綺麗にまとめられていて、メイドカチューシャがすごくよく似合う。無表情なのとツリ目なせいか、目つきだけちょっと威圧感があってボクを緊張させた。

 ただ歩いただけ。それだけだったのだけど、ピンとはられた背筋、足音もたてず、隙のない動き。これが王宮の使用人か、となんとなくボクも背筋を伸ばして構えてしまう。


「紹介します。こちらはクレア。使用人兼、王宮親衛隊の隊長をやっています」


「はじめまして、クレアと申します」


 今度は深々と頭を下げる。お辞儀ひとつとっても美しくて圧倒される。ボクも慌てて頭を下げる。


「よ、よろしくお願いします。タルトです……え? 親衛隊の隊長?」


「クレアはもともとは近衛騎士団だったんです。王宮内では僕の警護と身の回りの世話もお願いしているんです。今では一番信用できる人です!」


「そ、そうなんだね……」


 通りで動きに隙がないわけだ。すごく引き締まった躰なのも納得。でもこれって――


「クレア。タルトさんは僕の大切な恩人だ。無礼のないよう誠心誠意仕えて差し上げてほしい」


「かしこまりました、陛下」


「では僕はこれで。何かありましたらクレアに仰ってください。彼女は頼りになりますから!」


 そういってルイは出ていった。彼女はルイにずいぶんと信頼されているらしい。


「あの、クレアさん、これからよろしくお願いします……」


「陛下のご命令でございます。御用の際はなんなりとお申し付けください。では早速ですがお部屋のお手入れをさせていただいてもよろしいでしょうか?」


「あ、はい」


「ではタルト様はこちらのお召し物をどうぞ」


 ボクがベッドの上で受け取った絹製の部屋着に着替えている間、クレアは慣れた動きでボクの散らかしたローブと、脱いだ服をまとめて袋に詰めたあと、花瓶の水の取替え、お風呂にお湯を張り、部屋に明かりをつけ、とテキパキ動き出した。これなら使い方がわからない高級インテリアの数々にも困らずに済みそうだ。


 ボクはその様子をベッドの上にあぐらをかいて眺めていた。他人が自分のために働いている様子をただ見ているだけというのはどうにも落ち着かないものだね。


「ありがとうございます。クレアさん」


「いいえ、陛下のご命令ですので。それと……」


 クレアは一度動きを止めてこちらに向き直ると頭を下げつつ。


「私のことはクレアとお呼びください。タルト様」


「あ、うん。わかったよクレア。じゃあボクのこともタルトって呼んで」


「いえ、陛下の恩人にそのような無礼はできません。申し訳ございません」


 全く体幹のぶれない美しい所作で頭を上げると、クレアは作業に戻った。

 

 なんだか距離を置かれている。そりゃまあ国王の来賓と使用人なのだから仕方ないのだけど。ちょっと寂しい。だって、久しぶりに出会った同世代の女の子なのだ。


 クレアの金色の長い髪は仕事の邪魔にならないように頭の後ろできれいにまとめ上げられているが、たぶん結構長めだと思う。無表情だから怖い感じはするものの嫌な感じは一切ないし、こうして眺めていると見とれてしまって飽きが来ない。


 これはまさに「美少女」だ。しかも親衛隊長。剣の腕やら魔法の腕もすごいってことだ。

 彼女こそ、異世界人の物語にふさわしい、探し求めていた「本物」だ。


 あれあれ?

 ルイってば「本物の美少女」がすでに近くにいるじゃないか。さすがは異世界人。これだよこれ。ボクの知ってる異世界人っていうのはこんな感じなんだ。だって、普通は親衛隊長なんてヒゲのマッチョなのに、こんな若くてきれいな子がやっているなんていかにも都合がよくて「異世界人らしい」じゃないか。

 これが異世界人の物語というやつだ。

 ボクは一人でうんうんと頷いた。

 ナツキやリントは美少女どころか友達すらいなかったからもしかして異世界人がハーレムを作るっていうのはやっぱり一つの法則なんだ。あの二人が特殊だったんだよ。


 ルイの美少女探しはひとまず必要なしだね。ルイはハーレムよりも能力のほうが問題だ。

 とはいってもハーレムと呼べるほど女の子が周りにいるわけではないだろうからいずれはもっと女の子に囲まれていくのだろうけどね。今はまだ子どもだからね……さりげなくボクのおっぱいを触るエロガキだけどね……。


「ねえクレアさん」


「クレア、とお呼びくださいタルト様」


「じゃあボクのこともタルトって呼んでよ」


「できません」


「どうして?」


「先程申し上げた通りです」


 クレアは手を止めずに返す。呼び方を変えるのは無理か。どうにかしてクレアと仲良くなりたいのだけどな。


「ねえクレアさん」


「…………」


「クレアさん」


「…………」


「クレア様」


「…………」


「クレア」


「何でしょうか」


 ようやく手を止めてこちらを見た。こいつ……!

 意外と強かだな。いや、見た目通りというか。


「クレアってとても綺麗だね」


「なにか、御用はございますか?」


「いや、ないけどさ」


「では失礼します」


 そういってクレアはすぐに作業に戻ってしまう。


「むぅ……手強いな」


 いっそボクも使用人として雇ってもらって同じ待遇に慣れば仲良くなれたりしないだろうか。


「ねえ、クレアってもしかしてボクのこと嫌い?」


「………」


「もしかして、うるさい?」


「はい」


 ダメだ。取り付く島もない。

 

「うわ!」


 気づいたときには目の前にクレアが美しい姿勢で立っていた。気配を感じなかった。いつの間に……。


「タルト様。ご入浴の準備が整いました」


「あ、はい……」


 ボクはベッドの下に用意されていたふわふわのスリッパをはいて、クレアの後についてペタペタとお風呂場へ。浴室内は控えめの明かるさで木製の大きな浴槽にお湯が張ってあって幻想的な雰囲気。なにか花のような良い香りまでする。香油まで使っているのかな、贅沢すぎるお風呂だ。


「こちらへどうぞ」


「……はい」


 あまりの豪華さに圧倒され大人しく誘導される。


「お背中を流させていただきます」


「え? い、いいよ! 一人でできるもん!」


「そうはまいりません。陛下から誠心誠意お使えするように、と言いつかっております。さあ」


「お、お風呂くらい一人で入らせてよ、ちょっと脱がさないで!」


「ダメです。タルト様はずいぶん長い間お風呂に入ってらっしゃらないようですね」


「なっ!?」


 顔に血が集まるのを感じる。嘘でしょ。そんなに臭うってこと!?


「私が徹底的に洗って差し上げますから、さあ!」


「せめてじ、自分で脱ぐから! ……ねえ、クレアは脱がないの?」


「……私はこの後も仕事がありますので」


「服が濡れちゃうよ?」


「構いません。そのための使用人服ですから」


「ボクだけ裸になるの恥ずかしいよ。クレアも脱いでよ。いいじゃん女の子同士なんだし」


「…………」


 クレアはちらっと浴槽を見た。あれ? もしかしてそんなに嫌がってない?

 これは好機。


「クレアはお風呂嫌いなの?」


「…………仕事中ですから」


 なんとなく感じたぞ。お風呂は嫌いじゃないんだな。わかるよ。こんなお風呂を目の前にして、女の子なら我慢出来ないよね。クレアだってお仕事でホコリと汗まみれで気持ち悪いだろうし。


「じゃあお風呂入んない。クレアが一緒に入ってくれないなら入らない!」


「わがままを言わないでください。そんな汚れたままでは晩餐の席にお通しできません」


 そこまで汚いかボクは。

 こっちだって、ここまで来て引き下がれるもんか。この鉄仮面をどうにか引っ剥がしてやるんだ。


「なるほどね。クレアは陛下の恩人であるボクのお願いが聞けないってことなんだね。あー、悲しいなあ。あとで陛下に言いつけなきゃなぁ」


 こういう手を使うのは気がひけるけど仕方がない。なんとしてもクレアを、脱がす!


「ちょっと、それは……」


「ボクだけ裸にされて、お願いしても聞いてもらえず……すっごく傷ついたってルイに……」


 はぁ、とクレアがため息を付いて


「……わかりました。私も脱げばよろしいのですね」


「やった」


 クレアは恥じらう様子は一切見せずにメイド服を素早く脱いで、さらに下着もぬいでそれらを手際よくたたむと、今度はボクの服を脱がせにかかった。


「じ、自分でやるってば!」


 クレアは無言でボクをひんむいて、お風呂の横に用意されていた敷物の上にボクを寝転がした。


 全身をくまなく洗われた後、逃げようとしたボクをクレアは無言のまま尋常じゃない力で押さえつけ、さらに全身をオイルマッサージされた。


 くそ、このままされるがままにはならないぞ。

 ボクは浴槽へ入れられそうになったときにクレアにしがみついた。ものすごく柔らかい。女の子ってこんなに柔らかいものなのか、って自分で言ってて少し悲しくなったけど、ここは引けない。


「は、離してください。はやく浴槽へお入りください。風邪を引いてしまいますよ!」


「嫌だ。絶対に離さない。一緒に入ってくれないと離さない!」


 かなり抵抗されたけど、浴槽に入れてしまえばクレアは大人しかった。


挿絵(By みてみん)

「て、天国……」


 温かいお風呂に浸かるのなんて何年ぶりだろう。

 今日はほんとうにいろんなことがありすぎた。心も体も疲弊しきっていたのだけど、疲れがお湯に溶けていくようだよ。コタンでもずっと水浴びで済ませてたし。王様や貴族は毎日こんなものを味わえるのかな。羨ましい。



 クレアもまんざらではないようで、少し目に入りすぎていた力が緩んだ気がした。

 クレアの真っ白な体が少しずつ赤みを帯びてきれいなピンク色に変わっていく。本当に綺麗な人だ。

 だけど、ところどころ戦場で受けた傷のようなものも見て取れた。ボクも人のこと言えないくらいあちこち傷が残っているんだけどね。お互い、お嫁に行けるか心配だね。


「ねえクレアは何歳なの? ボクは十七だよ」


「……私は今年で十九歳になります」


 さっきまでと違い、クレアはゆったりした声で答えてくれた。さっきまでの氷のような声はお湯で溶かされたようで、楽器の音色のように美しい心地の良い声が浴室に反響する。声まで美しいなんて完璧すぎる。


「お城に来て長いの?」


「十五の時に剣の腕をかわれて兵士になりました。近衛騎士となったのは去年です。ルイ陛下に代わってから取り立てていただき、親衛隊長を務めるようになりました」


「そうなんだね。それまではなにをしてたの?」


「……私の親は早くに亡くなり、遠い親戚の家で使用人として育てられました。家事など一通りのことはそこで覚えました。早く一人で生活できるようになるために、剣の腕を磨き、そして兵士に志願したのです」


 そんな過去があったんだね。一人ぼっち。天涯孤独の身の上か……。


「ボクもね、両親はいないんだ。お父さんは小さい頃からいなくて、お母さんは三年前に病気で。それで村をでてこの国の色んなところを旅してきたんだよ」


「そうだったのですね」


 クレアは悲しそうな、そしてとても優しい目でボクを見た。


「クレアはルイからすごく信頼されているんだね」


 ルイという言葉にぴくりと反応する。


「ルイ陛下は、私を親衛隊長に取り立ててくださいました。ルイ陛下はお一人で全てを抱えておられます。私は……」


「……私は?」


「……なんでもありません。さあ、あまり長湯するとのぼせてしまいますよタルト様」


「今何か言おうとした! ねえ、私はなに?」


 クレアの怪力であっさりと湯船から取り出されたボクは隅々まで綺麗に体を拭かれ、新しい高そうな貴族服を着せられて部屋に先に出された。たぶんこの後の晩餐会に出席するための服だろう。

 クレアはしばらくして、またきっちりと髪をまとめ上げて完璧なもとのメイド服の姿で浴室から出てきた。

 ふたりともたっぷり湯船で体を温めたものだから顔がピンク色で蒸気を放っていて、二人で顔を合わせて思わず笑ってしまった。


 クレアの笑顔は、それはもうめちゃくちゃ可愛かった。


 最後にもう一度髪を拭いてくれて、髪型を整えてくれた。クレアは自分の髪に付けていたヘアピンを外して、ボクの伸びてきてしまった髪につけて整えてくれた。ちゃんと男の子に見えるように。ボクはその間、大人しく、クレアの美しい顔をずっと見続けていた。クレアは「これでよし」と言って、少し微笑んだ。女の子のボクでも惚れてしまいそうだったよ。


「タルト様は不思議なお方ですね……」


 クレアはボクの服を整えながらつぶやくように言った。


「そうかな。クレアのほうがすごいよ。王宮の親衛隊長なんだし。ボクなんてただの村出身の平民だよ」


「そういう意味では……そろそろ夕食の準備にいかないと」


「……残念。もっとクレアとお話したかったな」


「……私も温かいお風呂に入らせてもらえて嬉しかったです。ありがとうございます、タルト様。それではまた後ほど」


「また一緒に入ろうね!」


 返事の代わりに少しだけ笑って見せてくれたクレアは軽くお辞儀をして、部屋から出ていった。


 すごく無理やりな感じだったけど、ちょっとだけ仲良くなれたと思っていいかな……。


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