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14,物語の終わりに向けて


 ボクの腕の怪我が治るまでは王都への出発は延期することにした。


 ナツキは納屋から離れの空き部屋に移ることになって、これも最初は断っていたのだけど強い要望に折れる形で部屋を貸してもらうことになった。村の英雄をこんなところに寝泊まりさせていく訳にはいかないって。


 ボクはといえばまだベッドから自由に動き回るには時間が必要だった。

 毎日僕の家に来ては甲斐甲斐しくボクの世話を焼こうとするナツキには正直まいった。

 ボクがどこかへ行こうとするとすぐ抱きかかえようとするし、結局ボクの家の中まで見られちゃったし。おトイレに行くときでさえ「大丈夫か一人でできるか」って言って手伝おうとする。

 怪我してるの腕だし、できるに決まってるだろ。

 それに、いくらボクのことを男だと勘違いしているとはいえ、トイレまで手伝うとかお前はお母さんか! と言いたくなるほどの過保護っぷりを発揮してみせた。いや、お母さんにもおトイレは手伝ってもらわないんですけど。ほんとに。

 


 ナツキの補助なしでも生活に支障が出なくなったあたりからはボクのリハビリも兼ねて、森に入ってのナツキの訓練も再開した。

 ナツキには身につけてもらわないこともいっぱいある。

 まず体力がなさすぎるし、森の魔物くらいは一人で対処できるようになってもらわないとこの先王都までの旅なんてできっこない。

 

 なにより確認しておかなければならない事がある。


 ナツキの能力の使い方だ。


「さあナツキ、強い気持ちで相手を倒そうとイメージしたり、えーと、あとはこう、なにか自分の手の中に硬いものが造られるような……なんかそんな力を出すんだ!」


「あのな……もう少し具体的に言ってくれねえと、そんなあいまいなやり方を力説されてもさすがにどうしようもできねえよ」


 言うようになったじゃないか。生意気な異世界人め。


「ボクだってわからないんだから仕方ないじゃないか。だけど君には腕を変質させるような能力があるのは間違いないんだ、それを使いこなせるようになればきっとこの先役に立つよ! さあ!」


「うーん……とりあえずやってみるだけやってみるか。こんな感じか?」


 ナツキが珍妙な掛け声と共に右腕に力を込めるとナツキの右腕が一瞬色を失ったように変化し腕が伸びたかと思うと次は大きく膨らんだ。


「おおおお! なんかできた!」


 ナツキの腕が色を取り戻したときにはナツキの右腕には棍棒が握られていた。

 いや、棍棒じゃない、この森ではあちこち落ちている太い木の枝。棍棒風の枝。

 ボクがナツキの腕を折ったとき(それだけ聞くとボクがすごく凶悪に見えないか?)に使ったものにそっくりな棒だった。


 それを何もない場所から作り出したのだった。


 こんなことはどんな強力な魔法が使える魔法使いだって出来ない。

 なにもない場所から物を作り出すことなんて魔法では起こり得ない。はず。


「マジでおれ物質生成能力があるんだな……やべえなんかテンションあがってきたわ!」


「これはとてもすごいことだよナツキ。場合によっちゃあ魔法なんかよりもすごいことだ。でもさ。これってこのあたりにいくらでも落ちてる木の枝だよね。せめて剣とか槍とかそういうのは作れないのかい?」


 その後いくら頑張っても剣も槍も作り出すことはできなかった。

 ダガーを持たせてイメージさせたりしてみたけどそれでもダメだった。

 その代わり、ナツキは棍棒を作り出すことなら自分の意志でできるようになった。


「なにも武器がないよりはマシ……かな。でもコレだったら安物の剣でも買ったほうがいいかもしれないね」


「確かに……」


 せめて、あの大蛇を倒したときに顕現した鎌の腕くらい自由に使えればよかったのだけど、二人で特訓している間に一度も出すことは出来なかった。

 うーん、こいつの能力はいったいどういう仕組みになっているのだろうか。追い詰められないとだめなのかな。だとしたら不安定にもほどがあるぞ。次に何かのイベントに出くわしてしまったとして、発動するかどうかもわからない能力には頼れない。

 ほんとにハードモードだな。


 とはいえ、これは大きな一歩とも言える。超回復以外の能力を初めて自分の意志で使えたということ。

 だったらいずれはあの鎌や回復薬なんかも自分の意志で出すことができるのかもしれない。なにかコツみたいなものがあるのかもしれない。

 その秘密を解き明かすのが最初のハードルだとするとちょっと高すぎやしませんか。ボクは正直そんな理不尽な高さのハードルは避けて通りたい。


 それからも、ボクの腕が治るまでナツキの特訓は続けさせた。

 能力の詳細は結局わからず終いだったけど、森の魔物程度には慣れてくれたし、なにより体力を付けさせるのには成功した。




 ボクの腕が完全に治った頃。


 火の季節が終わり、風の季節がきた。


 植物は実り、動物が活発に動き出し、森の恩恵を最大限に受けられる収穫の季節。ナツキはアキって言ってた。


 風の季節になれば自給自足しやすくなるし野宿もしやすい。

 それに、村に行商が出入りするようになるのでお金さえ払えば馬車に乗せてもらって別の村まで運んでもらうこともできる。


 旅立ちには絶好の季節だ。ただし、風の季節は短い。すぐに土の季節がやってくる。その前に出発しなくちゃいけない。


 もちろん、たっぷりと時間はあったのでボクたちは旅立ちの準備は万端に整えていた。

 

 いよいよ王都に向けて出発の日だ。村の人に縁起の良い日を選んでもらいボクたちは村を後にした。



 

 ナツキと出会ってから二ヶ月が経とうとしていた。


 未だ美少女の仲間は現れないまま。


 何度も何度も考えてきたが、それでもやっぱり今のままではナツキは運命に勝てなくなるときが来る気がする。ボクではナツキを支えきれない時が来る。


 ナツキはボクを必要としてくれている。

 ボクだってナツキの力になってあげたいって気持ちはあるよ。だけど、世界の運命を天秤にかけることはできない。気持ちだけではどうにもならない。ナツキにはふさわしい能力を持つ仲間が必要だ。


 王都に行きさえすればきっと物語は進むことになる。

 沢山の人に出会うだろうし、色んな事件も起きると思う。


 その時こそ「本物の美少女」が現れることになる。はずだ。


 そこまでナツキを導くのが今ボクにできる役目。それまでナツキをサポートするだけがボクにできること。


 そしてそこがボクの旅の終わり。ボクの物語の終着点。


 ボクの髪はもうすぐ肩に届こうとしていた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 第一章読ませていただきました。 テンポのいい文章で、さくさく読めました。 異世界人がいっぱいいても誰も世界を救わないという世界観が面白いです。 ノマルの人の良いやさしいところ、巻き込まれ体…
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