表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/22

プロローグ

こんにちは

楽しんでいただけると幸いです

僕は楽しいです

 薄暗い、柔らかな光に包まれて、窓の無い部屋で少女は目を覚ました。完全に覚醒したため二度寝ができる程の眠気すら残っていなかった。瞼の闇に慣れきった瞳を擦ることも縮こまった筋肉を引き伸ばすこともせず、即座に上体を起こす。

 その動作に呼応して控えめだった光が徐々に己の存在の主張を強める。それに対応して少女の黒目が縮む。そこに彼女の意思は必要とされない。

 下半身の上に被さる毛布を雑に横へ押しやり、少女は体の向きを変えると、素足が冷たい床に触れる。重心を前に傾けそのまま立ち上がると、どこからともなく小さなリスが体毛で覆われた胴を擦り付けてきた。少女が屈み、手を差し伸べると、それは腕を駆け登って少女の肩に陣取った。

 少し移動すればすぐに出口に辿り着く、小さな箱状の閉ざされた空間から廊下に出る。途端、霧のように立ち込めていた闇が一瞬で吹き消えた。そんな見慣れた光景には何の反応も示すことなく、少女は日課をこなす為に冷えた廊下を踏みしめる。

 日課と言っても大層なものではない。言われた通りに顔を洗い、服を取り替える。朝の日課はこれだけだった。ものの数分もあれば終わってしまう、退屈な作業。少女は何故、これらを太陽が昇る度に繰り返す必要があるのか理解できなかった。言われたからやる。それだけだった。

 それ以外は特に何も指示されていなかった。太陽が沈めば全身を洗い、乾かし、服を取り替え、リスも洗う。洗濯は洗濯機の役目だった。少女の仕事ではない。

 つまり自由だった。何をしてもいい。ある部屋には山のように積まれた本がある。それを読みふけるのもよし。別の部屋にはCDやDVD、それらの再生機器も用意されている。それらを鑑賞するのもよし。他にも部屋はあったが似たような暇つぶしの道具が山積みになっているだけだった。その中には囲碁、将棋やオセロ等ボードゲームや、ダーツやテレビゲーム、スロットやパチンコすらも取り揃えられていた。しかしそんなものを一人で極めたところで一体何になる?

 少女は自由を謳歌していた。何もしない。時を数えることすらせずにただ虚空を眺めて虚空と一体化するような感覚に襲われる。もはやそれも日課の一部だった。

 大量の書物は全て記憶しているし、それは音楽や映像にも言えることだった。そもそも囲碁、将棋やオセロは一人ではできない。ダーツもパーフェクトゲームくらいなら難なく取れるようになっていた。テレビゲームも対戦相手がCPUだけだから物足りないし、スロットやパチンコに関しては何が面白いのかわからなかった。

 少女は虚空だった。

 無論、リスは片時も離れずに少女のそばにいる。しかしリスでは虚空を埋める『何か』にはなれない。特定の行動しかしないのでは暇つぶしにもならない。いや、『暇』という言葉は何か使命を持つ人にのみ与えられる僅かな空白の時間を指す。もちろん、長い暇を持て余している人だっているだろうが、今まで与えられてきた使命、これから与えられる使命のことを考えると、やはり相対的に見て僅かであろう。

 その点、少女にはこれから与えられる使命が無い。ならばこれは『暇』とは言えないのではないか。しかし、たった一つだけ、与えられた使命ならばある。


 この塔を出るな。


 それだけだ。

ありがとうございました

どうでしょうか

面白いと思われたでしょうか

僕は面白いと思ったので満足です

それではまたどこかで

できれば二話で

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ