ヒトの血を好む悪魔
フォロワーの性癖を踏まえて書いた短編。
即興モノなのでクオリティは保証しませんが、供養ってことで。
「その路地には、ヒトの血を好む悪魔が住むんだって。」
「ヒトの血を好む悪魔?吸血鬼のこと?」
「それが、血を吸うわけじゃないらしいよ。ただヒトの血の臭いに誘われて来て、そのヒトをぱっくりと食べちゃうらしいの。」
「怖っ、歩きながら鼻血とか出たら食べられちゃうじゃん。」
「あんたよく鼻血出すもんねえ、気をつけなよ?」
そう、その路地にはヒトの血を好む悪魔が現れる。
「ひひっ、やった、やってやったぞ!」
夜の街。みすぼらしい男が一人ひた走る。
その手には血のついたナイフと、鞄。
「あの野郎、金をうなるほど持ってる癖に俺に一銭もくれやしねえ。これは天罰だ!」
どうやら、鞄には大量の金が入っているようだ。
男は重そうにその鞄を引きずりながら走る。
しかし人気の少ない夜の街とはいえ、このままでは風体が悪い。
大通りは避けて路地を通るか--
そう考え、男は一つ手前の角を曲がり路地に入り込む。
「へへ、もうこんな街からはおさらばだ。」
男はすでに皮算用を始める。あの街に行って、家を借りて、俺が貧乏人を使う側に--
そう考えていた最中、路地に甲高い足音が響く。
コツーン、コツーン。
どうやら、路地には先客がいるようだ。
面倒なことになった。
「一人や二人、変わりゃしねえか。」
もうすでに一人やってしまった後だ。警察を呼ばれるくらいなら、いっそ。
コツーン、コツーン。
されど、足音はすれど姿は見えず。
先ほどから少しずつ近寄ってくることだけがわかる。
「おい!誰か居るのか!」
男は苛立ちを隠せない声でそう訪ねる。
狭い一本道の路地だ。隠れられる場所はないはずなのだが。
コツーン、コツーン。
足音はさらに近づく。
もう随分とそばにいるようだ。
「このナイフが見えねえか!?死にたくなきゃ姿を表しな!」
そう叫んで返り血のついたナイフを月にかざす。
わずかに残る白刃が月明かりに反射する。
コツーン、コツーン。
足音は更に近くに。そう、目の前から。
「おい!聞こえねえのか!」
男は闇雲にナイフを振り回す。が、その刃はむなしく空を切る。
コツーン、コツーン。
月明かりを映したナイフは、一人の細身の紳士を映し出す。
その様は、まるで擬態した悪魔のようで--
「他人〈ヒト〉の血だ。」
その言葉とともに路地には静寂が訪れる。
そう、それは他人〈ヒト〉の血を好む悪魔の住む路地。