卒業の日
壇上は、余りにも眩しすぎた。目から涙が出てくるのは、きっとライトに照らされすぎたせいだ。
「送辞 本日、この学び舎を旅立つ先輩方は、きっとすがすがしい、晴れ晴れとした心境であると思います。先輩方と過ごした二年間は、とても、有意義な…もの、でした。僕は、生徒会や部活を通して、先輩方から多くを学び、多く、を、得ることが、できました」
僕の両目から零れ落ちる水は、送辞のカンペをぐしゃぐしゃにし、書面はインクが滲んで読めなくなっていた。それでも、せんぱいと何度も練習した記憶が、次の文を思い出させる。
「正直、まだ、せんぱいに、教わりたいことは、たくさん、ありま、した…!けど、僕は、せんぱいをひきとめることは、できません…」
嗚咽が漏れる。もはやちゃんとききとれる言語をしゃべっているのかどうかもわからない。
せんぱい
「せんぱい」
ずっと
「ずっとっ…」
好きでした。
「応援しています…!在校生っ、代表、生徒会長」
*
壇上はとても眩しかった。鼻がツンとするのは、きっと体育館が埃っぽいせいだ。
「答辞 今日、この素晴らしい日に、この場で卒業式を迎えられたことを、私はうれしく思います。思えば、入学してから今日まで、私はたくさんの人に支えられてきました。先生、先輩…後輩。今、体育館に集まっている皆さんのおかげで私はここまで来ることができました」
まっすぐ見つめることはできたはずなのだ。登壇する関係上、彼はステージの目の前に座っているのだから。なのに視界は液体に阻まれ、少しの光すら眩しくて、何も見ることができない。
泣くな、泣くな。彼とあれだけ練習したのだから。声を震わせるな。
「まだまだ皆居たかった、けど、時とは、流れるからこそ。時。私たちは、今日、思い出の詰まったこの学び舎から、卒業します」
声は詰まっているけど、聞きにくいことはないはずだ。
三年間培ったスピーチ力は涙では揺らがない。
かわいい、私の後輩。
「皆さん」
本当は。
「これからも」
大好きだったよ。
「頑張ってください。卒業生代表、旧生徒会長」
*
叶わない恋心は心の奥に。
伝えられない言葉は、喉の奥に。
いつかその思いが、自分から卒業するまで。
しまっておこう。