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やっぱり僕がいい

作者: 窪宮彩
掲載日:2019/06/09

目が覚めるとそこには、いつもと違う風景が広がっていた!  

なーんて、そんな小説やマンガみたいな展開を期待していたが、  

そんな事は、やはり滅多に起こらない(あたりまえだ)  


目が覚めるとそこには、いつものみなれた風景が広がっていた。  

天井の右端にいつの間にか出来た黒いシミ。  

ほこりを被ったくたびれたぬいぐるみ達。  

すっかり勉強しなくなって、今は物置化している勉強机。  

雑誌や食べかけのお菓子が散乱している足の踏み場のない床。  

そう、そこは相変わらず汚い僕の部屋。  


窓を開けても、いつもと同じ風景。  

ちゅんちゅんと鳴くスズメの声。  

どこからともなく聞こえる、目覚まし時計。

「いつまで寝てるの、起きなさい!」

「いってらっしゃい」

「いってきます」  

朝の慌ただしい、生活音があちらからもこちらからも聞こえる。


「♪♪♪♪♪♪♪♪」  

あ、僕のスマホのアラームも鳴っている。  

そろそろ起きる時間だ。  

朝が弱い僕なのに、今日はアラームよりも早く目が覚めるなんて珍しい。  

早く止めなくちゃ。  

あれ、スマホのボタンを押しているのに、止まらない。  

アラームは、相変わらず鳴り続けている。


「私が止めてあげる!」

僕のとなりにやってきたのは、ほこりをかぶったうさぎのぬいぐるみだった。

「ありがとう」  

しばらく沈黙したのち、びっくりした僕の口から出た言葉はそんなありふれた言葉だった。

「久しぶりだね。私の事なんてすっかり忘れていたでしょう」

「そんなことないよ」またもや苦し紛れの言葉しか出てこない。情けない僕。

「君の事はよく分かっている。いつも見ていたから。こんなにほこりを被っても捨てないでくれてありがとう」  

どうやら僕の心の内を見透かされているようだ。  

目の前のうさぎのぬいぐるみに聞きたい事があった。

「あの、ちょっと聞きたい事が、」言いかけたとたん、

「では、私はこれで」うさぎのぬいぐるみは役目を終えると、

僕の目の前から消えていつものほこりを被ったぬいぐるみ達の集団に埋もれて行った。  


あれ、何かいつもと違う。  

ぬいぐるみがしゃべるなんて、  

まだ僕は夢の中なのか。  

部屋は間違えなく僕の部屋。  

部屋の外に出てみる。  

いつもと同じ廊下、階段。  

1Fへ降りてみる。  

父は新聞を読んで、母は慌ただしく台所で、朝食を作っている。  

何も変わらないいつもの風景。

「おはよう」僕のいつものあいさつ。  

父がちらっとこちらを見た気がした。  

母は、台所だから聞こえてないのか。

まぁ、いつもと同じ光景だ。  


だけど、またあれっと思う事が。  

いつも用意されいてる僕の分の朝食がない。  

なぜだ。  

「母さん、僕のごはんは?」台所に向かって言った。  


おかしいな、誰も反応しない。  

なぜだ。  

不思議な事にさっきちらっとこっちを見た父もこっちを見ない。  

なぜだ。  


やっぱり夢なのか。


「君の疑問にこたえようか」

またもや目の前にあらわれたのは、ほこりをかぶったぬいぐるみ。 

今度は、うさぎではなくくまだ。  

2度目なので、驚きは半減していたがやはり言葉がうまくでなかった。  

長い沈黙のあとようやく出た言葉。

「これは夢ですか」


「違う、夢ではない。現実だ」

「でも、現実の世界では、ぬいぐるみはしゃべらない」

「そのとおり」

「じゃあ、なんで?」

「それは、つまり君が現実の世界にもういないということ」

「どういうこと」

「こっちへおいで」  


くまのぬいぐるみに案内された部屋は、みなれた居間の部屋だった。  

あれ、でも何か違う。  

あんな所に写真が飾られている。  

そこには、見慣れた僕の写真。  

めったに笑わない僕が笑ってピースサインをしている、珍しく写真映りがいい一枚。    


ああ、そうか。  

僕は、ようやく思い出した。  


「僕は死んだんだ」


「あまりの突然の出来事でムリも無い」くまは悲しそうな声で言葉をつなぐ。

「死は突然やってくる。だから君のように死んだ事を忘れてしまう人もいる。眠っているときと死んでいる状態は似ている」

「だから勘違いしてしまうんだね」

「悲しい勘違いだ」

「ありがとう。これでようやくぐっすり眠れそうだ。次に目が覚めた時は、楽しい現実の世界に生きたいな」

「ゆっくり、おやすみ。君が眠るまできちんと見届けるから。またどこかで会おうね。その時までさようなら」    


目が覚めるとそこには、今度はどんな風景が広がっているのだろう。  

やっぱり当たり前の日常がいい。  

やっぱりいつもの僕でいい。  

なくして分かるありがたみが今、痛いほど分かるよ。

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