せめて、私らしく
ああ、なんで生まれてきてしまったのだろう、と私___早乙女明里は何時もそう思っている。
この世の全ての不利益を背負ったが如く、私には不幸因子で構築された人生のレエルが途方も無くひかれているらしい。
父は私が産まれた時にはもう居なかった、居なかったっていう表現だと何となく無念の死を遂げたとか感動的な意味合いも含んでしまうけど、実際は逃げたのだ。やるだけの事をやって逃げたのだ。俗に言うクソ男と思ってもらって異存はない。
一人残った母親はしょっちゅう私に手をあげてくる、私が抵抗出来ないことを良いことに。
そして多分この女は働いていない。ずっと家にいる。そのくせ酒と煙草を買うお金はあるらしい。きっと一線を超えた何かで調達してるんだろう。
いつも家で訳も分からないことを喚いて、私を殴り、最終的に一人でおろおろ泣いている。馬鹿な女だ。
はあ、なんでこんな家に生まれちゃったのかな___
子は親を選べない、親は子を選べる。と思っている。
例えるなら子どもは白いキャンバスで親は画家である。そのキャンバスを色鮮やかに彩るか、見るにも耐えない破落戸になるか、裁量は全て画家次第なのだから。どうやら私は後者になりそうだ。
だから死んでやろうと思う。そんな汚い色を抱えて生きてくなんてゴメンだ。あの馬鹿な女に一泡吹かせてやる。
来世は素敵な女の子に生まれ変わっているはず。前世がこんなのなんだから、きっと美人でみんなから愛されて、ご飯も一日三食たべれて、ちゃんとしたお父さんとお母さんと一緒に三人並んで昏れ泥む町を笑いながら歩いてる。きっと、きっとそう。そうじゃなきゃ私が報われない。
もっともっといろいろなこと、したかった。
来世の素敵な女の子へ、私は私らしく生きれなかったけど、私の分まで生きてね。
私は、私らしく死ぬのだ。
『それではニュースをお伝えします。昨日の午後、〇〇県〇〇市△△にあるアパートの二階から、早乙女明里ちゃん3歳が転落し、病院に搬送されましたが頭蓋骨損傷のため死亡しました、繰り返します、昨日の午後___』