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松は抜いたけど

作者: 琴野 音
掲載日:2018/02/25

今日は居間で盆栽を弄ろうとしていた。

だけど、それはもう叶わない。

僕のお気に入りの松の盆栽は、昨日妻が鉢から抜いて捨てたからだ。だから今は、気持ちを癒すために愛犬と戯れている。


「ワン!」


クリスは、お利口に膝の上でテレビを見ている。それを撫でながら僕はミステリー小説を読んでいた。

エアコンのせいで喉が乾いたのか、クリスはケージに戻って水分補給。その隙をついて、僕の膝の上にモゾモゾと入り込むレナ。


「ふしゅんっ!」


クリスより大きくて真っ白な耳を擦り付けてくるレナは、満足げに鼻を鳴らす。

大きな身体は体温も伝わりやすく、抱っこしていると暖かい。しかし、戻ってきたクリスに見つかり、悲しそうな眼差しを受ける。


「ほら、くーちゃん様が戻ってきたぞ。どきなさい」

「く~ん……」


レナを膝の上からどかせると、クリスはすかさず僕の膝に乗る。縄張り争いはクリス先輩が優先なのだ。

居場所を失ったレナは、仕方なしといった様子で僕の背中にもたれ掛かる。さして重くはないが、この前後の圧迫感。

不意に、レナが僕の耳を舐め始めた。


「こら、やめなさい!」


それでも止めないレナを引き剥がそうと踠くと、膝の上のクリスも目を輝かせた。


「わぷっ、くーちゃん、遊んでるんじゃないからっぷは!」


後ろから耳を舐められ、前から口を舐められ……尻尾を振るな。怒れないだろう。


気が付くと、クリスは疲れてケージに帰ってしまっていた。寝たのか?

僕を押し倒すように身体をスリスリしてくるレナは、クリスに僕を取られていた寂しさを全身で表現していた。


「わふっ!」

「わかったわかった。落ち着きなよ」


それでも、興奮したレナはのしかかったまま顔や身体を擦り付けてくる。綺麗な毛並みの頭を撫でると、やや満足そうな表情をしていた。


「可愛い可愛い」

「ふーんす」


やっと手に入れた僕との時間。レナはぎゅっと抱きついたまま離れそうもなかった。



その時だった。



「ただいまー」


ま、まずいっ!

玄関から足音が近づき、障子が音を立てて開く。


「お、おかえり。真琴」

「兄さん……玲奈姉さん。何してんの?」


居候中の妹からドン引きされながら、僕とレナは正座する。


「いや、これはだな……」

「私が盆栽捨てちゃったから、お詫びに……コスプレというか」


言ってから犬耳を外す妻。

真琴はゆっくりと障子を閉めながら姿を隠していく。


「そういうの、私がいない時にしてよね」


パタン。




この日の夕食は、とても気まずいものとなった。

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