第11話勇者の戯言
そして、人々は勇者に反抗心を持ち、剣を取った。
だが、流石は勇者。一般市民の剣など、受け付けない。流石は魔王を倒した事のある勇者だった。続々と増え続ける「勇者を狩れ!」と言う世界の言葉に勇者は本気を出した。
ある朝。
ある村の村人が起きると、街に買い出しに出た。そこへ突風が吹き荒れた。一瞬で姿を見せた勇者アンソニー。その街の建物ごと、村人達を一太刀の剣で一掃した。
そして、勇者アンソニーは言った。
「お前らが悪い・・・俺は勇者だぞ!」と・・・。
世界中の人々は、ほとんど亡くなって、生き残った人々は地下に潜った。勇者アンソニーは君臨した。
それはもう、勇者と呼べる存在では無く、新たな魔王だと地下に潜る人々が言っていた・・・。次の勇者が現れるまで、元勇者・・・否、新しい魔王は君臨する事になった。
それから10数年の時が流れた。
勇者アンソニーの城、元魔王の城に、新しい勇者が現れた。
「俺は、勇者ソドム!お前が、魔王!お前を成敗してやる!」
「ちがう!俺は勇者は俺だ!ソドム!俺の名は、ラシーン!」
いずれも、元勇者アンソニーの好きだったクララッカスとハイジャンの息子たちだった。
それを知ってか知らずしてか、元勇者アンソニーは、その新たに現れた勇者2人に問う。
「お前たち、魔剣を持っているのか?」
新しい、勇者は2人とも頷いた。
そして2人で一気に攻撃を始めた。
「因果なものだな・・・」
魔王だと思っていたものが、本当は、勇者で。勇者だったものが、魔王になる。これが、今の世の中の常か?
世界を取れば、こいつらもいずれ、魔王として君臨するのか?悲しい歴史だな・・・。強さを持ったものの証なのか、それとも、偶然の賜物なのか。
否、自身の弱さが作り出したものなんだろうな・・・。だが、こいつらをそのまま勝たせるわけにはいかん!
俺が、勇者だ!
俺が、勇者だ!
俺が!!!
「俺が、勇者だ!」
魔王に成り下がったアンソニーが叫んだ!
すると、ラシーンとソドムが高笑いをする。
「お前みたいな奴が、勇者な訳ないだろう!母さんが惚れる訳ないだろう!馬鹿野郎が!」
母さん・・・だと・・・?
あぁ、懐かしい・・・クララッカス・・・そして、ハイジャン・・・。元気にしているかな?
「散っていけ!魔王よ!」
新勇者たちの渾身の一撃!
「俺が、勇者だ!」
「俺は、勇者だ!」
「俺が、勇者だ!」
「俺は、勇者だ!」
「俺が、勇者だ!」
「俺は、勇者だ!」
「俺だから、勇者だ!」
魔王になった勇者は、ずっとその言葉を吐き続けて倒れていった。魔王討伐後、魔王の城を後にしたラシーンとソドム。各自母親の待つ街へ戻っていった。
だが・・・・。その数日後・・・。黒い光に包まれた街は、一瞬にして消え去る。
世界の2箇所で大きなテロ事件が起きたのだった。
こうして、歴史は繰り返される。一向に、中世時代を抜けきれないのは、こういった世界の不思議があるからだ。
そして、その後10年先にもまた同じ声が城で鳴り響く・・・。
「俺が、勇者だ!」
「俺は、勇者だ!」
「俺が、勇者だ!」
「俺は、勇者だ!」
「俺が、勇者だ!」
「俺は、勇者だ!」
「俺だから、勇者だ!」
「否、俺たちだから・・・勇者だ!!」
「俺たちだから・・・俺たちだから・・・俺たちだから・・・」
「勇者だ!!勇者だ!!勇者だ!!勇者なんだから!!!何をやってもいいんだろう?」
そう言った勇者の戯言は、代々引き継がれている。魔王を倒した人物たちの言葉。
否、ただの戯言だ。勇者と呼べる人間など、この世に存在などしない。
だって、この世にあるのは、正義も悪もどちら側にでもなれる人間だけなのだから・・・。
それが、世の常なのだ。