夏 - 28
試合は当初の予想通り、両投手の好投が光る、息詰まる展開となった。
前山は今日も球のキレが良く、四回まで毎回奪三振で被安打一と安定感を見せ、水美の先発石中も普段通りの打たせて取るピッチングでゴロの山を築いてきた試合が動いたのは五回表、安喜第一の先頭バッターがフォアボールで出塁すると、送りバントで二塁に進み、続けて内野ゴロの間に三塁にランナーが移動しチャンスを迎えると、
「ぅおら!」
四番の入井が詰まりながらも石中のアウトローの真っ直ぐをライト前へ運び、水美が先制点を許してしまった。
「しゃーないしゃーない!切り替えていきましょう!」
旗川を初め、ベンチから部員達が鼓舞するように声をかける。
石中はその後崩れる事なく、次のバッターを打ち取りイニングを終えた。
「追い込まれる前の真っ直ぐを狙っていけい、受け身過ぎんで」
監督の言葉で仕切り直し、攻撃に臨むが、中々チャンスを作れず、試合は中盤まで進む。
「ん~、まだ疲れてはないか……」
ベンチから試合を眺めていた雄一は、前山の投球につけ入る隙がないかを探っていたのだが、やはり球威のある真っ直ぐとキレの良いスライダーは来ると分かっていても対応するのは難しそうだ。
スタミナ切れする様子もまだなさそうで、攻めるのは簡単ではない。
「チッ、くそ」
と、少し離れたところで臣川が一人呟いてるのに気づいて耳を澄ます。
「あ、なんだよオイ」
「ガラ悪過ぎんぞお前」
「るせえよ、試合見てんだ」
「何か気に入らないのか?」
雄一が尋ねると、臣川は少し鬱陶しそうな顔をしながら、
「完璧なピッチングされて腹立つんだよ、くそ」
前山の投球に文句がつけようがなく、それが気に入らないらしい。
背番号一が欲しくて仕方がない彼だからこそ、他人の活躍を見て良い気がしないのだろう。
「……飢えてるんだな」
出番が欲しい、聞かなくても臣川の気持ちが伝わってきて、肌を刺すような気迫に萎縮しそうになる雄一。
(俺も、呑み込まれないようにしないとな)
誰もが勝つつもりで必死にプレーし、応援し、待っている。
試合に貢献して、まだ夏を終わらせないように汗を流している。一人の後輩に偉そうに語った手前、二回戦のような無様な姿を見せる訳にはいかない。
自分の出番が訪れるまでに出来る事、相手の分析、精神統一、思い付く限りの事をしよう、雄一は静かに決意し、試合の展開を見つめるのであった。




