夏 - 23
昼休憩、雄一は部活仲間と共に食堂で昼食をとっていた。
「慶野はいつもマヨネーズついてんな」
「いや、頼んでないのに親がつけるんだよ」
「マヨラーだって分かってくれてるからやろ?」
「うっせーぞ。うわっ、煮物にまでマヨネーズかかってやがる!」
けらけらと笑っているのは同級生でもある上和、雄一と向かい合って座る彼は隣の慶野をからかうのを楽しんでいるようだ。
「どうしたの雄一、ボーっとしてさ」
それを見つめていると、横合いから乃村がひょいと顔を覗かせてきて、雄一は軽く顔を仰け反らせる。「うおっ、何がだよ」
「何か考え事してるみたいだったからさ」
状況把握が重要なチームの要たるキャッチャーだからか、他人の仕草から考えを読み取る力に乃村は長けている。
誤魔化そうとするがすぐに他の二人も乗ってきて、
「あ~あれだろ、前に噂になった後輩の女子の事考えてたんだろ?」
「マジか! 中光にはそんな話無縁だと思ってたんやがなあ」
「だから違うっての、人の話聞けよ!」
なぜか雄一が早希という後輩の女子と知り合いである事がチームメイトにも(彼女の名前こそ分かっていないものの)知られており、たまにこうしていじられるのだ。
(……まあ、あいつのせいってのはあってるけどな)
今朝、早希が口にしていた言葉を雄一はずっと頭の中で反芻させていた。
「もし負けた時、先輩は先輩になんて言いますか」
(さすがに気にしすぎじゃないか?)
確かに先輩の引退というのは居合わせた後輩にとって決して心地のよいものではない。
去年も三年生の引退を経験したが、結局何もする訳でなく、ただただ試合に負けて悔しみ涙を流す彼等を見つめるだけであった。
負けたら引退、それは避けられない運命だ。
当事者でない下級生が、どうこう考える必要などないと思うが。
スッキリしないまま雄一は食事を終え、昼から予定された三回戦に向けてのミーティングのために部室へと向かった。




