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夏 - 20

「ストライクッアウトッ!」

 アンパイアのコールに無言で天を仰ぎ、バッターボックスを後にする雄一。

 八番ライトでスタメンに抜擢されて迎えた今日の二回戦、雄一は三打数無安打一四球という散々な結果に終わった。

 試合自体は先発の石中が完封、打線も繋がり七回コールドで決着がつき、水美が三回戦に駒を進めた。


 試合から数日、今日は三回戦の前日、雄一は練習のため朝からだるい体を動かして学校へと向かっていた。

「あ、ん?」

 ぼんやりと歩いていると、正面に見覚えのある人物の姿がある事に気付いて、俯き気味だった視線を上げる。

「ん、先輩」

「おう……今日は休みか?」

「はい。補習も部活も、今日はたまたまないので」

 早希の格好は薄手の半袖シャツにジーンズと、いつも雄一が見る格好と違ったもので、そのラフな装いを一瞬凝視してしまった。

 登校するのならこんな時間に私服で、しかも学校に向かう自分と向かい合って進む訳がない。

 彼女の左手にはビニール袋が握られており、コンビニ帰りなのが分かった。

「朝飯でも買ったのか?」

「母さんが今日は起きるのが面倒らしくて、家にあるものでも間に合ったんですけど、せっかくなんで買いに出てみたんです」

「ふぅん、そうか」

 いつもの事だが、会話が続かない。

 服装の事でも口にしようかと思ったが、いやらしい気がしてやっぱりやめておいた。

「んじゃ」

 そう一言残してさっさと立ち去ろうとする雄一。

「……あ、あの先輩っ」

 だが通り過ぎて少し経ったところで、早希の方から呼び止めてきた。

「ん?」

「先輩の野球部は、その、勝ったんですよね。大会」

「ああ、明日が三回戦だ」

「そう、ですか」

 なにか話し方がぎこちない気がする、怪訝そうに雄一が眉を潜めると、早希は視線を泳がせた後、

「もし負けた時、先輩は先輩になんて話しかけますか?」

 唐突にそんな事を尋ねてきた。

「ぶっ、何聞いてきてんだよいきなり」

「すいません、けど気になったんです」

 彼女らしからぬ歯切れの悪いしゃべり方に違和感を覚える雄一、だがふざけているようでもなく、受け流そうとも思えなかった。

「……ん~、まあ、励ますというか、労う? 言葉をかけるぐらいしかやる事なんてないだろ」

「そう、ですよね」

「なんだよ、何かあったのか?」

 ムズムズするので急かしてみると、早希は意を決したように顔を数回横に振ってから、改めて雄一を見据えてくる。

「……この前、先輩が出る県大会があったんです」

「先輩……ああ、陸上の」

「私は応援してたんですけど……負けたんです。部で一番早い先輩が」

 淡々と話しているように聞こえて、重い空気が言葉にまとわりついている。

 これから彼女が話すのは彼女にとって重要な意味がこめられている、雄一はそう感じて早希の言葉に耳を澄ました。

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