夏 - 19
「ふぅ……さすがだな」
前のバッター乃村の勝ち越しタイムリーに感心しながら、雄一は続投する事になった相手ピッチャーの矢花を見据える。
(志願したなら、強気に攻めてくる。ストライクを取りにくるなら……)
打てない相手ではない、故に凡退は許されない。
何より、先輩麦根に代わって送り出された自分が、稲田に匹敵する活躍をしない訳にはいかないのだ。(……落ち着け。シングルヒットで良いんだ)
追加点を上げなければ、まだまだこの試合はシーソーゲームから抜け出せない気がする。
なら、自分が打たなくては。
(真っ直ぐ、真っ直ぐ……!)
わざわざ打ちにくいカーブを狙う必要はない、真っ直ぐが甘くきたら打つ、それだけを頭に浮かべ、余計な事は考えない。
矢花が投球モーションに入るまで、ひたすら一つの目的だけを頭に浮かべ、バットを握る力を強めたところで、雄一は気づく。
自分はやはり、打ちたいのだと。そして打つために自分は必死になっているのだと。
(真っ直ぐ来い、真っ直ぐ来い……!)
今の必死な姿なら、あいつに見られても胸を張れる。
そう思えば思うほど、打てなかったらどうしようという不安より、打ってやりたいという欲求の方が強く強く湧き上がってきて、緊張を感じなくなっていた。
そして初球、ストライクを取るためにインコースへ投げ込まれてきたストレートを雄一は迷わずバットで捉えた。
わざわざ続投を志願したピッチャーが、逃げのピッチングをする筈がない。
そんな読みが見事に当たり、打球はまたも左中間へと抜け、貴重な二点タイムリーとなった。
「っしゃああ!」
思わず飛び出す雄叫びと、それを掻き消すくらいの仲間の歓声が、試合の流れが完全に水美野球日に傾いた事を現していた。
結局この回が試合の分岐点、試合の流れを握ったのがどちらのチームなのか、言うまでもなかった。




