表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/218

夏 - 15

「ピッチャー、石中君に代わりまして、臣川おみかわ君」

 三回裏、水美はエース石中から背番号十の二年生投手臣川へと選手交代を行う。

「っ~~~」

 投球練習を終え、臣川は視線を落とし肺から熱い息を吐き出す。

「球走ってるよ! 思い切ってね!」

 駆け寄ってきた乃村の声に臣川は顔を上げ、

「……俺は喜んでるから、飛ばしていくぞ」

「どうしたの急に」

「俺は早く試合に出たかった。だから石中さんが早く降板して、本心は嬉しさの方が勝ったぜ」

「わざわざ言うって事は、石中さんを気の毒に思ってるんでしょ?」

「ん」

 乃村の言葉に思わず声を詰まらせる臣川、確かにエースの先輩からこんなに早く継投する事になると思っておらず、石中が消沈しているのではと気にはなっていた。

「引き継いだんだから、今のエースは君だよ。エースは結果でチームを盛り上げないと。気にしてる場合じゃないよ?」

「っ、分かってるって。だから喜んでるって言っただろ!」

 強がっているつもりでまだ申し訳なさが心に残っていたのだろう、臣川は首を数回左右に振って、緊張感を取り戻す。

(そうだ、今だけは俺がエース、チームの勝ち負け握ってんだ……!)

 どうしても上回れない先輩がいても、諦めずに必死に練習に明け暮れ、くすぶらせ続けてきた投げたい欲求を、今こそ発散させてみせる。

 先頭バッター黒戸くろとにはストレート二球で追い込むと、三球目は打者の手前で一気に落ちるフォークボール。

 バッターは腰を引くように大きく空振りをして三振に倒れる。

 続く高木たかぎにもストレートで攻め三球で追い込むと、最後もインハイの真っ直ぐで空振りさせて三振に打ち取る。

 再び引き離したい蒼上に思うようにはさせない、相手を圧倒するピッチングに、臣川は奢る事なく次なるバッター井涯を見据える。

(俺が流れを引き戻す。二番手には二番手なりに、やるべき事があるんだよ……!)

 積極的に振ってくる井涯に臆する事なく、力で押して追い込むと、最後は高めの釣り球を打たせてライト正面へのフライに。

 普通に打ち取るのではなく、圧倒する。そんな意識による全力投球であった。

「あー落ちたぞ!」

「っ……はあ?」

 イニング終了と思ってベンチに戻ろうとしていた臣川は、聞こえてきた声に耳を疑い外野を見る。

 完璧に打ち取った筈の打球は、しかしライトを守る雄一が目測を誤った事で彼の横で大きく跳ね、外野を点々としていくのを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ