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夏 - 13

「よっしゃ抜けたー!」

 水美ベンチから飛び出す絶叫に押されるように、雄一の打球は気持ちの良いライナーとなって左中間を真っ二つに破っていく。

 三塁ランナーに続いて一塁ランナーの乃村も迷わず三塁を蹴ってホームへ向かう、それくらいに打球は完璧な当たりであり、外野手が追いつく頃には雄一も三遊間まで進んでいた。

 ランナー二人返って八対六、まだ序盤とは思えない激しいゲーム展開となり、沈みかけていた水美ベンチもあっという間に活気を取り戻す。

「いいよー雄一ー!」

 乃村の声に右腕を掲げて応えながら、雄一は公式戦で打点を上げた興奮を必死に抑えようと深呼吸する。

(……昔従姉の裸見ちまった時ぐらい動揺してんな、俺)

 不謹慎な例えを思い浮かべる雄一、何にせよこれで麦根の代わりの役目を少しは果たせた。

 だからといっていつまでも浮かれていてはならない、試合はまだ二回で何より水美はビハインドを背負っているのだから。

「ん……? 石中さんのままなのか」

 九番バッター石中が打席に向かう姿を見て首を傾げる雄一。ブルペンでは既に臣川が肩を温めている、石中も打撃は出来る方だが、代打を起用して畳みかけると思ったのだが。


 雄一のタイムリーでベンチが盛り上がる少し前、先発石中はグローブを傍に置いてアイシングしようとしたところで、監督野間笠に近くまで来るよう指示された。

「はよ打つ準備せえよ」

「え、でも、代打じゃないんですか」

「ほやったら鉄山に麦根の手当て手伝わせんわいね」

 石中のバットを近くにいた上和に取らせ、野間笠は続ける。

「せめて打ってやり返したくないんか?」

 監督の言葉に普段はポーカーフェイスの石中の顔が一瞬歪み、歯を食いしばったような表情になる。「やめとくかいの?」

「……まさか、打つのは好きなんで」

 そしていつもの緩い笑顔を戻すと、バットを受け取りネクストバッターズサークルへ向かっていった。 そのエースの姿は、打ち込まれた悲壮感に包まれたものではなく、むしろ試合をまだ終わらせはしないという闘志が滲み出た、紛れもないチームの中心人物の姿であった。

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