表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/218

夏 - 12

「バッター、麦根君に代わりまして、中光君」

 アナウンスのコールに続いて、雄一は打席へ向かう。

 七番乃村がライト前ヒットを放ち、ワンアウト一塁三塁の場面での代打起用、最低でも一打点は上げなければ、麦根先輩に後で何を言われるか分からない。

『スタメンの奴以上にギラギラしてもらわないと困る』

 麦根はそう釘を刺してきた。それは期待でもあり義務でもあり、雄一が打席に立つ者として結果を求められているという事だ。

「よろしくおねがしゃっす!」

 主審と相手キャッチャーに頭を下げてから、雄一はバットを構えてピッチャーを見据える。

(コントロールが良くて、落差のあるカーブを投げてくる。ハンパなコースを打ったら詰まってゲッツー、ってのはダメだよな)

 点差は四、最低でも後一点は入れなければ、ここで打席に立った意味がない。

 高めの真っ直ぐに狙いを絞り、一球目を待ち受けた。

「ストライーッ!」

 初球はアウトローギリギリへのストレート。

 見送ってから一度ベンチを見る。

(まあ、打てだよな)

 細かい事は考える必要はない、頭を拳で軽く小突いて繋ぐ事だけを頭に擦り込ませる。

 二球目は外へ逃げるカーブ、球の遅さに手が出そうになったが、際どいと見てスルーしボール。

 球速差はベンチから見ていた以上に大きく感じる。

(良いんだ、どうせカーブなんか捨ててるんだ)

必要なのは結果、雄一は麦根に出番を譲られて試合に出ている、それは麦根に代わる活躍が出来なければいけないという事だ。

(緩急に騙されるな、球自体は遅いんだ……!)

 負けたら引退の先輩が自ら退いてまでくれた出番、必ずものにしてやる。

 活躍出来ない事の悔しさ、活躍する事の嬉しさを味わっているからこそ、雄一は揺るぎない意思で打席に臨んでいたのだ。

「んぐ、ぁあ!」

 ストレート狙いのところにストレートがやってきた、コースは外だが、一球目よりも内側のストライクゾーン。

 雄一は凡退したらというマイナスな事など考えず、思い切ってバットを振るった。

 そしてその瞬間に彼は理解した、打球の当たりの良さと試合が動いたという手応えを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ