夏 - 6
「あ~……萎える」
夏休み前には当然期末試験がある。
水美は基本的に直前の休日は部活動は停止になり、陸上部もその日は休みだったため、早希は朝から自室で試験勉強に励んでいた。
父は仕事、母は買い物に出ているため家には誰もおらず勉強しやすい静けさに包まれていたが、二時間が過ぎたところで早希は急にやる気をうしない、だらりと椅子にもたれかかった。
今勉強しても頭には入らないだろう、少し休憩しようと早希は立ち上がり、一階で麦茶をコップ一杯飲み干してから、ベッドの上に仰向けに寝そべる。
「暗記ってやってもやっても、次の日覚れてるか心配なのよねー……」
個人的に好きではないからと避けていたが、やはり回数を重ねなければ身につかない数学に切り替えようかと思ったところで、早希は何気なくスマートフォンを手に取り画面をいじる。
(そういや今日って、うちの野球部試合だったっけ)
試験前でも部活動のあるところはある。野球部は毎年期末の前くらいから夏の大会が始まるらしく、それに付き合う応援団も勉強に使える時間を割いてまで遠出するのだから、大変だなと早希は思っていた。
「……先輩は、勉強出来てるのかな?」
最初は野球にあまりやる気がなさそうな人だったが、勉強熱心というタイプにも見えなかった。期末前の大事な時に、負ければ終わりの大会に臨まなければならないというのは気の毒だ。
「どうでもいいけど……ん」
どうでもいいが、意味もなくネットで高校野球の速報を検索する。
「もし負けたら、先輩達の今年の夏は終わり、か」
大袈裟な表現だと最初は思ったが、大会で敗退すれば三年は引退、一二年は秋以降の大会に気持ちを切り替えなければならない。勝つために練習してきた彼等にとってみれば、決して言い過ぎでないのかもしれない。
もし今日の試合負ければ、野球部は夏休みを前にして『夏』を終える。
それはなんというか、無念でしかないだろう。
そんな事を思いながら、早希は画面に映し出されたスコアボードを見て、一瞬言葉を失う。
「え、」
野球に詳しくなくても、合計点が多い方が勝ちな事ぐらい分かる。
だから見た瞬間に、早希はどっちが勝っていて、どっちが負けているのかすぐに理解出来た。




