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春 - 6

 金属バットの高らかな打撃音がするたびに夕焼け空に白球が舞い上がる。

「おっ、とととぉっ!」

 雄一は目で確認しながら落下点に入るが、予想より数歩ずれており、腕を慌てて伸ばしてなんとかキャッチする。

「風吹いてないのに目測誤るでないど~中光」

 ノックを眺めていた監督がのんびりした声で注意する。

「おぉーす!」

 苦手な守備練習を何度かエラーしながらこなした後、外野手組と共にグランドの端を走る外周に移る。ペースは人それぞれで、雄一は最後尾で他と距離を取って走る。

「おっせーぞ」

 背後から聞こえた声の主は同じ外野手でも常にスタメンを張る稲田だ。

「自分のペースっすよ」

「スタミナつかねーぞ」

 そう言いながら雄一の3倍の速度であっという間に前方に走り去っていった。(確かにこれ以上遅れるとさすがにまずいか)

  監督はあまり厳しい人間ではないが、やる気のない奴には怒るのではなく相手にしないという手段で制裁してくる。

 気づかれる前に周回を稼ごうと動かす足を速くし出した時、彼は視界の端に映った一人の人物に意識を取られた。朝登校した時にもちらりと見かけた、陸上部の女子だ。

 さっぱりとしたショートカットの髪をたなびかせ、小柄ながら健康的で締まりのある体つきで、四肢は細いものの華奢ではなくむしろ力強さが感じられる。

 ネットを挟んだ向こうの陸上部使用のエリアで走り終え、細かな汗で濡れた体をクールダウンさせるためにうろうろ歩いているようだった。

「っ」

 不意に、互いの視線が交錯した。

 感情は特にない、ぼんやりとした彼女の無垢な瞳に雄一はなぜか驚き目を逸らしてしまい、そのまま監督が練習終了の合図を出すまで走り続ける事となった。

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