春 - 65
(くそ、真っ直ぐじゃない……!)
低めに来たストライク球を振りにいった雄一は、動作に入ったところで感づいた。
ストレートを打つタイミングでバットを振ったため、このままでは確実に落ちていく球の上を空振りしてしまうだろう。
(……っ!)
一瞬だけ、勝負に負けたのだと悟ってしまった。
だが直後に、それは単なる諦めだと直感した。
ヒットかアウトか、何かの結果がまだ出ていないのに、プレーの途中で決めつけてどうする。
『だめですね』
先日鈴浪が口にしていた言葉を思い出す。
一回ぐらいの挫折で立ち止まってどうする、そんな偉そうな事を言ったのは他ならぬ雄一だ。
(読みと違うからって……!)
打てないと決まった訳ではない。
雄一はバットが振り切れるのを腕の力加減で必死に堪え、逃げていくフォークを追いかけた。
鈍いものの球を捉えた金属音が鳴り、打球の行方をグラウンドにいる者全員が目で追った。
「くっ……キツいか」
ボテボテのゴロは、しかし思いの外速い速度で三遊間へ。
ショート慶野が果敢に飛びかかって捕球しようとするが、ボールはグラブの先端を掠めたものの収まりはせず、そのままレフト前へと抜けていった。
「んあぁぁぁあ!」
それを見ていた臣川がくそったれとばかりに声を荒げる。
その間に三塁ランナーの麦根がホームに帰り、白組に勝ち越し点となる三点目が入った。
「おっしゃー!」「いいぞ中光ー!」
白組ベンチから歓声が上がり、一塁で止まった雄一は軽く腕を掲げてそれに応えた。
(飛んだ方向が良かったな)
正直読みでは負けていた、フォークになんとかバットを当て、捕られにくいコースに飛んでくれただけだ。
(三打数……じゃなくて四球があったから二打数一安打一打点、か)
タイムリーを打っただけでもアピールは出来ただろうか。
正直評価して貰えたかは分からない、それでも今の雄一は嬉しかった。
今日の試合は最初から、結果を狙いにいったから。
(……あいつが求めてた、満足のいく結果って奴か)
今のが抜けていなかったら、この前の鈴浪のように悔しがったのだろうか。
そう考えるだけでも自分はやる気になれていたのだろうか。
(……熱いな)
胸の奥に高揚感を感じた、これがプレーで結果を残す嬉しさなのだ。
いやそれだけではない、この試合で結果を出した事に喜んでいるのだ。
大会メンバー選出に繋がる、この試合だからこそ。夏の公式戦出場に近づいたかもしれないという期待に、雄一は喜びを感じずにはいられなかった。




