表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/218

春 - 65

(くそ、真っ直ぐじゃない……!)

 低めに来たストライク球を振りにいった雄一は、動作に入ったところで感づいた。

 ストレートを打つタイミングでバットを振ったため、このままでは確実に落ちていく球の上を空振りしてしまうだろう。

(……っ!)

 一瞬だけ、勝負に負けたのだと悟ってしまった。

 だが直後に、それは単なる諦めだと直感した。

 ヒットかアウトか、何かの結果がまだ出ていないのに、プレーの途中で決めつけてどうする。

『だめですね』

 先日鈴浪が口にしていた言葉を思い出す。

 一回ぐらいの挫折で立ち止まってどうする、そんな偉そうな事を言ったのは他ならぬ雄一だ。

(読みと違うからって……!)

 打てないと決まった訳ではない。

 雄一はバットが振り切れるのを腕の力加減で必死に堪え、逃げていくフォークを追いかけた。


 鈍いものの球を捉えた金属音が鳴り、打球の行方をグラウンドにいる者全員が目で追った。

「くっ……キツいか」

 ボテボテのゴロは、しかし思いの外速い速度で三遊間へ。

 ショート慶野けいのが果敢に飛びかかって捕球しようとするが、ボールはグラブの先端を掠めたものの収まりはせず、そのままレフト前へと抜けていった。

「んあぁぁぁあ!」

 それを見ていた臣川がくそったれとばかりに声を荒げる。

 その間に三塁ランナーの麦根がホームに帰り、白組に勝ち越し点となる三点目が入った。

「おっしゃー!」「いいぞ中光ー!」

 白組ベンチから歓声が上がり、一塁で止まった雄一は軽く腕を掲げてそれに応えた。

(飛んだ方向が良かったな)

 正直読みでは負けていた、フォークになんとかバットを当て、捕られにくいコースに飛んでくれただけだ。

(三打数……じゃなくて四球があったから二打数一安打一打点、か)

 タイムリーを打っただけでもアピールは出来ただろうか。

 正直評価して貰えたかは分からない、それでも今の雄一は嬉しかった。

 今日の試合は最初から、結果を狙いにいったから。

(……あいつが求めてた、満足のいく結果って奴か)

 今のが抜けていなかったら、この前の鈴浪のように悔しがったのだろうか。

 そう考えるだけでも自分はやる気になれていたのだろうか。

(……熱いな)

 胸の奥に高揚感を感じた、これがプレーで結果を残す嬉しさなのだ。

 いやそれだけではない、この試合で結果を出した事に喜んでいるのだ。

 大会メンバー選出に繋がる、この試合だからこそ。夏の公式戦出場に近づいたかもしれないという期待に、雄一は喜びを感じずにはいられなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ