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春 - 55

 サインはヒッティング、ベターは無論ヒット、最低でも進塁打、最悪はゲッツー。

 雄一の結果次第でこの回点を取れるか取れないか大きく左右される。

 慎重にミートを心掛け、初球を待った。

(向こうは引っかけさせてゲッツーが欲しい筈、どうせ甘くは入れてこないだろ)

 臣川が初球を投じる直前、雄一は腰を落としてバントの構えをして揺さぶりをかけた。

 犠打をする気はないが、するかもしれないと相手に印象づけたい。

 アウトローへの球がベースを通り過ぎりる寸前でバットを引き、ボールカウントを稼ぐ事が出来た。

 臣川ならすぐイライラして球が甘くなるかもしれない、そこを狙うつもりだった。

 二球目も球威のあるストレート、今度は手を出させるための真ん中高めへ投じられたが、様子見を決めていたためこれもボールとなる。

(フォアでも良い、下手に手を出さなきゃ……)

 次はストライクを稼ぎに来るだろう、そう予測しもし甘いなら捉えると気持ちの準備をする。

「入れば押せるから!」

 その時、キャッチャーの乃村が大きく叫んで臣川に声をかけた。

 ムラっ気を抑えようと間を置いたのだろう。

(入れば押せる、ね)

 確かにストレート自体質は悪くない。

 制球力がつけば石中にも劣らないと言われる実力の持ち主だ、いいコースに決まってくる前に仕留めたい。

 そう考えているうちに、臣川が三球目を投じてきた。

 球速は遅い、高さは膝上、コースも甘い、打ちごろだと直感した雄一はバットを勢いよく振り払った。

「っ……!」

 しかしバットが触れる直前、ボールはぐっと揺れて下へと落ちる。

 気づいた時には芯を外して球を叩いてしまっており、打球はふらふらと力なく宙を漂ってからショート旗川がなんなくキャッチする。

(っ、つられた)

 フォークを使おうとしているのは知っていたが、まだものには出来ていない段階だとも思っていたため、上手く落下した球に対応出来なかった。

「臣川にしては珍しくまともなフォークがきたなぁ」

 消化不良な気分でベンチへ戻ると、稲田がそう話しかけてくる。

「……ですね」

「おい、甘かったら打てるみたいな言い方だな」

 そこへ麦根が割って入って突っかかってきた。

「……打つつもりです」

「おし、じゃあ打てよ」

 いちいち言い方が強いものの、ただ挑発しているのではなく鼓舞のつもりだから、あまり嫌な顔も出来ない。

「あんま気にするなよ~、決める時に決めればいいんだからよ」

「決める時……」

 常に最高の結果を出せる訳ではない、だからこそ次に巡ってくるかもしれない大事な場面でだけは打つ。

 心に言い聞かせ、今の凡退を気にせず、しかしそこから何かを得ようと雄一はベンチに腰を下ろしてから静かに思案した。


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