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春 - 53

 いきなり一失点を喫したものの、石中は後続を断って一回表の守りを終えた。 

 雄一はボールが飛んでこなかった事に安堵しつつベンチへ戻っていく。

「お~したった一点だ、ちゃっちゃと取り返すぜ~」

 キャプテン稲田の言葉に白組の部員がおうと力強く返事をした。

「ん」

「うっ」

 空いている場所を探したが、強面の南田の前ぐらいしか広いスペースがなく、あまり目を合わせないように腰を下ろす。

「あっ、スマン。横座らせてくれ」

 そこへ雄一の横に滑り込むように座ってきたのは、先程好守を見せたセカンドの広岡。

「お前は七番だったよな?」

「え、あ、はい」

「俺六番だから、ちゃんと進塁させてくれよ?」

 気さくに話しかけてきた広岡だが、互いに小さな笑みをし合うとそこで会話はあえなく途切れてしまう。

 広岡は宮原と同じく守備の上手い選手だが、宮原とは対照的に態度や言葉がドライで、いまいち底の見えない人物だった。

 ああ、また関わりにくい先輩に囲まれたなと思っているうちに、白組一番に入った宮原がフォアボールで出塁、早速ピッチャー臣川が苛立って地面を蹴るのが見えた。

「お~お~、どっちもヨーイドンで四球かよ」

 苦笑しながら稲田がヘルメットを被ってベンチから腰を離す。

 二番上和は初球を手堅く送りバント、勢いはやや弱かったが、宮原のスタートが良かった事もありワンアウト二塁のチャンスが生まれた。

「おっしゃあ!」

 気合を入れるように叫んだのは三番レフトの麦根。

 最近は足を痛めた影響からあまり試合にフル出場させてもらえず、出番に飢えているのが伝わってくる。

 臣川の初球のアウトコース低めへの真っ直ぐに麦根は思い切りスイングして空振り。

「らしくないな」

 雄一の後ろで南田が呟きながら、ヘルメットを脇に抱える。

「元々気が立ちやすい奴だ、焦って振りに行ってるように見える」

「……その場合、先輩ならどう攻めるんですか?」

 無視するのもなんなので、雄一がそう尋ねてみると、南田はじろりと目を雄一に向けて、

「……落とす」

「はい?」

「変化球だ。臣川にはフォークがある、連発すれば打ち損じてくれるだろう」

 やや端的に説明され、そんなものかと雄一が思っていると、球審のストライクアウトという声が聞こえてきた。

 麦根がインハイの真っ直ぐを空振り三振に終わったようで、あからさまに苛立ちながらベンチに戻ってくる。

「もっと落ち着きなよムギちゃん~」

「うっせぇよ」

 悔しそうに顔をしかめる麦根にはにかみながら肩を叩いて、キャプテンであり4番の稲田が打席に向かう。

「4番稲田、珍しい言葉だ」

 隣で広岡が呟いた。

「あいつは嫌がるからな、任せられるのを」

 独り言かとも思ったが、ちらりとこちらを視線を動かしてきたのを見て、雄一は一度咳をしてから、

「でもみんなから4番に指名されても、すんなり受け入れてたと思いましたけど」

「あいつは気が進まなくても任された事は仕方なくやる奴だよ。それなりに」

 長く稲田とレギュラーとして試合に出てきた広岡だからこそ、一定の信頼を彼においているのだろう。

「わざわざそれを言いたかったんですか?」

「ん、気まずかったから何気なく言ってみた」

 広岡は少し恥じるように顔を逸らした。

 案外人見知りの多い野球部だなと思っていると、キンと気持ちの良い金属音が聞こえた。

 グラウンドを見れば、稲田がストライクを取りに来た臣川のストレートを初球からセンター前に打ち返していた。


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