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春 - 49

「ダメ?」

「はい、ダメでした。私は、単に挫けていただけみたいです」

 そう言って早希は手を雄一へと伸ばしてきた。

「バッターは四回中一回ヒットを打てれば良いって、楽だって前は思ってました。でも、一回打つ事が難しい事を知らなかった。私も同じです。一回のレースで全力を出す事の難しさ、それで終わらず次に繋げる大切さを、あまり分かっていなかった」

 バットを手にした早希は、再度百三十キロの直球打ちに挑戦する。

「だから、また頑張って走ります」

「……あっさり、立ち直ったのか?」

「いいえ、頭を冷やしたんです。先輩に励まされるなんて、かなりまずいじゃないですか」

 チクリと小馬鹿にされた気がした雄一だったが、バットを慣れない様子で構えた彼女の口元が僅かに、爽やかに綻んでいるのが見えて、何か言い返してやろうという気持ちが失せた。

「……とりあえず、脇はもっと締めてバット振れよ」

「っ、分かりましたよ 」

 そう言って初球を打ちにいった早希、バットは先端でボールを弾き、あらぬ軌道を描いて打球は雄一の額を掠めた。

「うおっ!?」

 驚いて腰が引け背後のフェンスに体を預けてしまった。

「こら!危ないから打つ人以外は外出て!」

 従業員から注意され、慌てて通路へ戻る雄一。

 それから黙って立ち去ろうとするが、

「先輩」

 早希に小さく呼び止められ、雄一は振り返る。

「先輩も少しは良い事言うんですね」

 そしてそう呟き微かに笑った彼女の表情はささやかながらも柔らかいもので、雄一は数秒間呆けた後、熱くなる頬を見せないよう早足でその場を立ち去った。

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