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春 - 45

 スタート地点に赤根屋が向かうのを、早希は静かに見つめていた。

 あのヘラヘラとしてよく喋る少女が、関西で名の知れたスプリンター? まさか、という困惑で脳内が満たされ、自分のレース直前なのについつい立ち止まって彼女の方ばかり眺めてしまう。

 他のランナーに比べば、確かに赤根屋の体つきはよく鍛えられている締まりのあるものだ。

「あ」

 ふと彼女の顔を見て、早希は思わず息を呑む。

 先程までの暑苦しいともいえる明るさが抜け、凛とした涼しげな表情をしているからだ。

 見ているだけでも、かなりの集中をしているのが分かる。

 スタートが近づき、赤根屋の組の選手が点呼の後、クラウチングの姿勢になる。

 パラパラとざわめいていた競技場がシンと静まり、その瞬間だけ周囲の者の視線がトラックへ向く。

「オンユアマーク!」

 係員がスタート銃を天に向け、クラウチングスタートの姿勢の赤根屋達ランナーが僅かに体を沈める。

「っ」

 数秒間がとても長く感じられた。

 セットのコールの後、スターターピストルの乾いた音が鳴り、選手達が一斉に立ち上がって飛び出す。

「あ」

 その一歩目で、早希は気付いた。

 彼女の走りが、他者と一線を画す代物だという事に。

 走るフォームも、脚のストライドの幅も、背筋の伸び方も、全てが洗練された鉄のように無駄がなく、風を切るのが目に映るようだった。

 僅か十秒余り、100メートルを駆け抜ける選手達から、数歩先に抜け出しゴールラインを超えたのは赤根屋だった。

 まさに神速、タイムでは全員一秒の間にゴールしたが、それでも赤根屋は頭一つ飛び出すくらいに速かった。

「すごい……」

 記録は町谷の持つ自己ベストと殆ど変わらない、高校女子の中でもかなりの好成績だ。

 同級生の自分よりも数段レベルが上の走りに、早希は思わず呆然としていた。


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