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春 - 30

 ゴールデンウイーク初日に組まれた練習試合、雄一はベンチスタートであった。

 今日の試合、スタメンはレギュラー組総動員、まさにガチのメンバーで構成されていた。

 だが試合展開は思わぬものとなっていた。

「おいおいマジかよ」

 近くに座る部員が声を漏らす。

「あんなに苦労してる先輩達久しぶりに見たぜ」

「そんなに打ちにくいのか?」

「このままじゃやべーって」

 ベンチ全体がざわめきだっているのは、試合が4回を過ぎた頃からだった。

 試合は1回、先発した臣川が四球と二塁打でランナーを出し、内野ゴロの間に一点を奪われる。

 それでも二回以降は立ち直り試合を作った臣川、あとは打線が点を取ればいい、そう部員は誰もが思っていた。

 だが水美打線のバットからは快音が響く事はなく、気が付けば6回裏2アウト、現時点で水美はヒットを一本も打てずにいたのだ。

「さすがは地区ベスト8、か」

 雄一がマウンド上の相手投手を眺めながらポツリと呟く。

 対戦相手、安喜第一高校は昨年の秋季地区大会で準々決勝まで勝ち上がり、今年春の県大会でも3回戦まで勝ち上がった、ここ一年成績の良い学校だ。

 立役者は二年生エースの前山。百八十センチを誇る長身の右投げ投手で、公式戦では全イニングを投げているというタフな選手だ。

 水美打線は彼に、今の時点でノーヒットに抑えられている。

「あれは右バッターにはきついね」

 三振を喫した乃村がプロテクターを着け終えて、苦笑いしながら雄一の隣に座る。

「真横に逃げてるように見えたな」

「うん。とにかくスライダーのキレがすごいね。速度もあるし、なによりコントロールも良いから手が出ちゃうとこに球が逃げるし」

 感心する乃村だが、このままではまずいと感じているのは他の部活と同じようで、どことなく焦りが見て取れる。

 この回9番臣川の代打に出された3年生引日ひきび がピッチャーフライに倒れ、あえなく攻守交代となり、ベンチからスタメンの部員がグラブを持って出て行く。

「ん~あかんのぉ」

 監督が溜め息混じりにけだるそうに声を漏らす。

「石中は予定通り投げさせるかのぉ」

 顎で軽く合図を出すと、少し遠めにあるプルペンで南田相手に肩を作っていた石中が一度頭を下げてマウンドへ小走りで向かう。

「なんか攻略法見つけててよ、雄一」

「芯で球を捉えれば攻略出来る」

 その通りだね、とまた苦笑して、乃村もグラウンドへ向かっていった。

「……攻略法ねぇ」

 ベンチにいる間呆けていた訳じゃない、雄一は前山をずっと観察して癖を探っていたのだ。

(……分かんねぇ)

 ただ、まだ見抜けた訳ではない。

「感心してるだけやあかんどお前ら、代打代走で使われてもすぐに出られるように心の準備しときぃな」

 ノーヒットに抑えられていても監督はいつもの調子で部員達に注意する。

 代打、自分が使われるとしたらそれしかない。いつか来るかもしれない出番のために、雄一は今は相手投手の観察だけに意識を割く事にした。


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