春 - 2
午後6時、部活を終えた早希はクールダウンのため一人中庭のベンチに座って体を休めていた。
すぐに帰っても良いが、部活で激しい運動をした後にはこうした静かに何もしない時間を持つのが彼女の日課である。
「疲れた」
黒の混じった夕焼けの空を見上げ、彼女はたたただ息をする。
目を閉じリラックスしていると、生徒の賑やかな声の重なりの中にキインと心地よい金属音が聞こえてきた。
「野球部、か」
早希は特に野球に興味はない。
ホームランを打ったら点が入るとか、その程度の知識しかない。が、昔一度だけ『まともに』見たことはある。といっても、高校生同士の練習試合の一部だけたが。
特にする事もない早希は、この学校がそこそこ有名である理由の部活動を見てやろうと、ふらりと足を向けた。
グランドでは百人近い部員が素振りやランニングで体をいじめ抜いていた。やはり野球部だけ雰囲気が違う、マジという奴だ。
(頑張りますね~ )と、小さく感心していた早希は、バッティング練習をしている男子の一人に目を向けた。
黙々と取り組んではいるが、なぜかやる気が感じらんない。打球の飛びは良いのだが。
「あ」
と、不意に彼と目があった。闘志も熱もない、冷たい眼光。
(変なの)
早希がそう思っていると、
「あ、こんなとこにいたんだ~」
エリナが駆け寄ってきて、早希の注意がそちらへ逸れた。
「暇だったから」
「早く帰ろうよ~、ついでにコンビニ付き合って~」
軽い感じで絡んでくるエリナに応じ、その場から立ち去る。
一瞬、視界の端の一人の少年を気になりながら。