↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/223

春 - 21

「ん」

「ん 」

 シートバッティングのために適当に並んでいると、偶然自分の前の順番になった部員と目が合い、互いに小さく礼をする。

 その部員は雄一より一回り大きく、しかし無駄のない引き締まった屈強な体をしていて、見るからにスラッガーな3年生野手、今の水美野球部の4番を任せられている沼山だ。

「ども」

「お、おう」

 どちらもはっきりしない挨拶をしているうちに、既にシートバッティングは開始された。

 今回投げる二人の投手のうち、最初は3年生の石中が務める。

「レギュラー以外ヒット打てんのかよ」

 石中は複数の変化球を操るサウスポーで、公式戦では常に先発を任せられている、紛れもないエースだ。

 球速は速くないが、抜群の制球力を武器に打たせて取るタイプの投手である。チームメイトとはいえそうそう打てる訳はなく、前に並んでいたレギュラー組も稲田、青山共に既に凡退している。

「……中光」

 ボソッと沼山に名前を呼ばれ、はいと返事をすると、彼はこちらを一瞥してから、

 「打てないって思ってるか」

「っ、どうすかねぇ」

 いきなり心中を読んだような事を言われ、動揺しながらも曖昧な返事をする。「沼山さんを手本にさせてもらいますよ」

「……やめた方が良い。俺のは上手くない」

 この人は雄一に負けず劣らず喋るのが苦手なタイプで、あまり会話が弾まない。

 ただ、そんな普段話さない先輩だからこそ、彼の言葉はやけに意味深に聞こえた。

「なんでです?」

「……俺は下手くそだから」

「不動の4番が何言ってんすか」

「……騙し騙しやってんだ」

 視線を合わせないままそう呟いて、立ち上がる。早くも番が近づいてきたらしい。

「どういう意味すか」

「大した事は言ってない。お前に教えるほど、俺は上手くないって事だ」

 そう言い残し、沼山は打席に向かう。

(……んな訳ないだろ)

 レギュラー組が何を言ってんだ、と心の中で呟きながら、雄一は沼山の背中を見送った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。