二年目 春 ー48
「盛り上げるねぇ、おたくら」
打席に入る前、木田は水美のキャッチャー乃村に対して、ほくそ笑みながら呟く。
「まだ、クライマックスじゃないよ」
「そうだなぁ、今からだからなぁ」
キャッチャー同士、作り笑いを浮かべて、そして口を閉ざす。
(初戦でここまで総力戦になるなんて、油断しとった)
筑紫学院は九州の常勝軍団、練習試合で一度負けるだけでも話題になる。
強豪とはいえ高校生の集まり、プロのチームだって全勝は出来ないスポーツで、常勝を課せられる方も辛いものだ。
全国大会となれば、見てる方の大半は筑紫学院が戦っている相手の方を応援している。
たかが子供のスポーツに、そう思いながらも木田はキャッチャーとしての研鑽を磨いた。
期待されずに入部したが、羽場や武中といったピッチャー陣よりもキャッチャー陣の方が層が薄かった事もあり、木田は学年が上がるとレギュラーになった。
プロ志望ではあるが、スカウトに話しかけられた事は数えるほどしかない。
それでも良い、目立つのは得意じゃない、高卒でプロになりたい訳でもない。
(俺は安牌だと、油断してくれてた方が助かるわい)
空木のような強打者相手と、木田のような下位打線の打者相手じゃ、バッテリーの配球は変わってくる。
その差の隙を突く、狙い球もコースも絞って、山を張って待ち構える。
「ふんっ!」
振り抜いたバットには好感触、少し内側に入ってきたアウトローのストレートをセンター方向へと打ち返してみせた。
「ナイバッチ! 木田っち!」
一塁コーチャーの一喜が声をかけ、木田は小さく右拳を掲げて応える。
「ラッキーヒットやで、こんなの」
謙遜しつつも笑みを浮かべ、一塁ベースを踏み直す。
(試合が決まるのは、予想外なところからって、思っとった方がいいで、水美さん)




