二年目 春 ー47
九回裏、筑紫学院の攻撃の前に、野間笠は守備位置の交代を指示した。
ピッチャーの播磨をレフトへ回し、レフトに入っていた臣川がマウンドへと戻る形となる。
「臣川、打ち損ねた分、また投げてこいや」
「っい、当然、行けますって!」
監督の発破に気合を入れて返す臣川、グラブを嵌め直して乃村と共にマウンドへと向かう。
「上和、これで少しはセンター守りやすくなったろう」
「まだライトが雄一なら、意味ないっすよ!」
上和の返しにチームメイトから笑いが起こる中、雄一は眉をひそめながらベンチを出る。
「おい、雄一。スネてんのか?」
「上和に全部任せりゃ良いって、安心してるんだよ」
「勘弁しろよ! 甲子園の芝、速くて読みにくいんだから、ちゃんとカバーしろって!」
お互いに笑いあって、守備位置へと向かっていく。
ここからは一失点も許されない状況になる、エラーどころかワンプレーのミスが命取りになる。
「飛んでくるなよ……」
思わず呟く雄一は、見上げた先に映る水美応援団を見て、ほくそ笑む。
「負けるところは見られたくないからな」
守備機会なしでチームが勝つなら、それでもいい。
そう思えるのは、試合展開と球場の雰囲気のせいだろうか。
先頭バッターの七番川田に対し、臣川はストレートで攻めるが、一球を投げるまでの時間をいつもより
も長めに使っているように見えた。
おそらくは打者がタイミングをとりにくいように工夫しているのだろう、臣川の考えか、乃村のアドバ
イスか。
初球フォークからの直球、そしてフォークを投じて空振り三振にきってとり、アウトカウントが一つ増
える。
「おぉーし!」
マウンドからの叫び声が、外野にまで聞こえてきた、気合の入りようが伝わってくる。
雄一も一つ息を吐く、延長に持ち込めば水美も上位打線だ、あとツーアウトをとれるかが重要だ。
迎えるバッターは八番の木田、次のバッターがピッチャーの和中、ランナーが出るか否かで、筑紫側は勝負手を打ってくる場面に違いない。
(……)
悪い予想はしない、雄一は息を呑んで打席を見つめた。




