二年目 春 ー38
「っ、セカンド!」
六番佳村は初球のインコースを強引に引っ張るが、打球は力なくワンバウンドして二塁鉄山の正面へ。
播磨の掛け声に応じるよりも早く、鉄山は前に出てボールを裁くとセカンドに入った慶野へ送球する。
「アウトッ!」
ゲッツーが成立した瞬間、球場全体が溜め息多めの歓声に包まれ、熱気が若干冷めていくのが分かった。
「ナイスピー播磨!」
「播磨よく踏ん張った!」
「……うむ」
チームメイト達に肩を叩かれ、安堵の中に失点の悔しさを滲ませるようにぎこちなく笑う播磨。
「おーしお前等、もう一回追いつくチャンスが回ってきたけん、今度は逆転までいってこい。特に播磨ぁ、打席立ちたいかのう?」
「う……は、はい!」
「じゃあベンチで準備しとれい、他のもんも皆、出る支度しとけよぉ」
野間笠の、ゆったりとしながらも強まった声色に、部員達の纏う空気が一段と引き締まる。
「怒鳴らずに煽れるようになりたいよね」
プロテクターを外し終えた乃村が、両肩を回して体を確かめながら呟く。
「余裕だな、先頭バッター」
「そう思うなら、バットとってよ。今、考えてるんだから」
同じく守備から戻ってグラブを外す最中に声をかけた雄一は、返ってきた乃村の真面目なトーンの言葉に従い、彼のバットを手渡す。
「プレッシャー、あるのとないのと、どっちが良いんだろうね」
「人によるだろ」
「もうちょっと捻った答えしてよ、代打の切り札なんだから」
乃村の口調こそ変わらないが、声色には硬さがあるように思えた。
「……乃村は代打じゃなくて、クリーンナップだろ。なら、代打の俺の事なんて参考するな」
「ははっ、それも、そうだね!」
バットを立ててグラウンドへと足を踏み出す乃村は、乾いた笑みを浮かべる。
その横顔はやや引き攣り、緊張感に包まれているのはが見て取れた。
「乃村、ホームランで良いぞ」
「煽るならもっと上手くやって!」
雄一の檄に乃村は言い返し、今度こそ打席へと向かった。
『三番、キャッチャー、乃村君』
チーム一の巧打者の、勝負の一打席が告げられる。




