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二年目 春 ー37

 五番バルザの引っ張った強烈な打球は、ワンバウンドしてサード西沢の正面へと向かっていく。


「ぬおっ!」


 三塁ランナーの井波はバルザが打った瞬間にスタートを切っており、タイミング的に間に合わない。


 西沢は一度迷ってからファーストめがけて白球を投じるが、ボールは高めに抜けてファースト旗川が思わず横っ飛びする程に逸れてしまった。


 さらにボールはグラブの先端を弾き、一塁ベンチ方向へと転がっていく。


「まっず……!」


 顔をしかめる旗川、しかしそのすぐ横を人影が通り過ぎていくのが彼の視界に映った。


「ぐっ!」


 影の主は播磨、キャッチャー乃村のカバーに入っていたが、弾かれるのを予測していたかのように、こぼれたボールに向かって突っ込んできていた。


 相手の二塁ランナー空木が三塁を回りホームを狙おうとしていたが、播磨のバックホームの構えに気付き慌てて三塁へ後ずさる。


「播磨! ナイスカバーだ!」


「っ……シックスセンスって奴ですな」


「なんだそれは、映画か?」


「違うけど、まぁ構わんよ」


 冷静を装っている播磨だが、筑紫の勝ち越しで沸くスタンドを背にする彼の内心は、果たして静寂なのだろうか。


 ここで監督野間笠がベンチで腕を動かし、伝令の久利が出てきて今日三回目の守備のタイムに突入した。


「播磨は打ち取った! 西沢も長打コースをよく止めた!」


 マウンドに集まってすぐ、旗川が大きな声を上げる。


「伝令の俺の檄、いらなかったか?」


「そんな事ないって! 久利の声を聞きに集まったんだから!」


「そうかよ」


 マウンドに集まった面々が小さく笑う中、サードの西沢が播磨の肩に手を置く。


「もう一回サードに打たせてくれ、今度は腹でキャッチしてやるから!」


「いや……それより三振をとった方が、我としては格好良いと思わないかね?」


「おいおい、張り合うなって!」


 久利のツッコミに一段と和む内野陣、勝ち越しを許したからといって、悲壮な空気は漂っていなかった。


「まぁ、オミは怒ってそうだけどね」


 乃村の言葉に内野陣の視線が外野へと向けられる。


 見れば集まった外野三人のうち、こちらを仁王立ちで凝視している奴が一人だけいた。


「付き合わされる上和さんと中光さんが気の毒っすね」


 セカンドの鉄山がボソリと言うと再び笑いがこぼれる。


「ここで抑えて、逆転してやるぞ!」


 旗川の檄に播磨初めは気合を入れて返事をし、それから各々はポジションへと散っていった。


 まだ一イニング残っている、皆まで言わずとも全員がそう心で思っていた。


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