二年目 春 ー32
「あ、は、はい! 六回からスローペースで調整するように、伝えてます!」
「ほうか、じゃあ……」
そう言い残すと、野間笠はベンチをゆったりとした足取りで出ていき、審判の方へと進んでいく。
それから一分ほどして、ウグイス嬢のコールがグラウンドに響き渡った。
『水美高校、選手の交代をお知らせいたします。七番、日野君に代わりまして、播磨君』
ほぼ同じタイミングで、播磨がベンチの前まで近づいてきて、久利から水の入った紙コップを受け取り口に含んだ。
「中光」
と、目が合ったところで播磨は雄一の名を呼んできた。
「え……なんだ?」
「お主ばかりに目立たれては、サブキャラのライバルとして名折れ。だから抑えてきてやろうぞ」
相変わらず独特な喋り方で告げられた言葉は、雄一はじめ周りの面々をきょとんとさせるには十分の、胡散臭い言葉だった。
「は……ははっ、そう、か。頼むぞ、リリーバー」
「おうよ」
サムズアップを見せつけて、監督の方へと歩いていく播磨。
「やる気十分、やな」
鼻を鳴らす久利に対し、雄一もまた肩を竦める。
「播磨、どうじゃ」
「準備出来とりますよ、全然」
軽く答える播磨の声には、緊張よりも高揚感が僅かに勝っているような雰囲気を感じた。
「おうし、ほじゃあ臣川の勝ち星盗んでこい」
「うっす」
野間笠の檄に小さく返事をして、播磨はマウンドへと向かっていく。
「楽しそうだな、あいつ」
「途中出場、楽しいんすかね」
雄一と共にボソリと呟いたのは、途中交代させられた葵田だった。
「もう立ち直ったんだな、後輩」
「……すいません」
流し目に尋ねる雄一に対し、葵田はバツの悪そうな顔を背けるだけであった。




