二年目 春 ー31
八回表、水美高校の攻撃の番になったところで、筑紫学院ベンチが動く。
「九番、益子君に代わりまして、ピッチャー、武中君」
背丈の高い右ピッチャー武中が、小走りでマウンドへと上がっていく。
「継投に入る前に追いつけて良かったね」
隣に座る乃村がタオルで汗を拭いながら、そう声を漏らした。
「あれか? 変化球ばっか投げてくる奴って」
事前のミーティングで、武中の名前は上がっていた。
右投げ右打ち、球速は最高で百四十キロだが、高校生らしからぬ多くの種類の変化球を投げる事が出来る。
先発の羽場と比べると、球威は劣るが技術で勝るといった感じだろうか。
地区大会では先発も務め好成績を残していたため、当然水美側もマークはしていた。
「さて、実物はどんな感じなんだろうね」
タオルを片手に前のめりになりながら、乃村がマウンドを見据える。
九番バッターの臣川に対し、武中が一球目を投じる。
「ふんっ!」
初球を狙って振りに行った臣川だが、インコースに差し込んできたボールは力なく一塁正面へと転がり、あっという間にワンアウトとなる。
「もうちょい粘れって」
「うるせぇな、甘く入ったと思ったんだよ!」
久利の言葉に臣川は言い返し、すぐにグラブを持ってベンチの外へと走っていく。
「真っすぐか?」
「いや、多分シュートだと思うよ」
「シュート? 初球でかよ」
「オミの性格をよく読んでるよ、キャッチャーが」
乃村の言う通り、武中と組んだ時の木田のリードは冴えていた。
一番鉄山は初球のアウトコースの直球を見逃しストライク、二球目も大きく縦に落ちるカーブに手を出さずに追い込まれ、三球目は高めの釣り球を打たされてキャッチャーフライに倒れた。
インを意識していた鉄山の裏を掻いた外攻めは、明らかにピッチャーとキャッチャーの相性の良さを現していた。
二番上和もフルカウントまで粘るも、六球目の内角低めを引っかけてファーストゴロに倒れ、三者凡退。
試合は八回裏、筑紫学院の攻撃に入る。
「ボールフォア!」
と、続投の臣川は先頭打者井波にいきなりフォアボールを出してしまった。
「おーいおい! しっかりしろ臣川!」
久利を始め部員達から檄が飛ぶが、臣川はこちらを見返す事もなく、乃村からの返球を受け取った。
「……一旦休ませた方がええかもしれんのぅ」
「休ませる……え、一旦?」
円山の疑問符に「そうじゃ」と答える野間笠。
「播磨は投げとるな?」




