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二年目 春 ー29

(打ちたいならさぁ……こっちだよね……!)


 乃村がミットを構えたのは、アウトコース。


 インを続けて打ち気に囚われている矢内の性格を読んだ上での、安全かつ最適な位置の筈だ。


 臣川が僅かに怪訝そうな顔をする、おそらくもっと攻めた投球がしたいのだろう。


 それでも、乃村は眉一つ動かさず、臣川を見つめた。


 僕に従えと、無言で訴えかけるように。


 臣川も少し間を置いてから頷き、そして腕を振るった。


(僕だって、僕のやりたいように野球をやる。だからマスクを被ってる間は、僕の野球がチームの野球なんだ……!)


 高校に入って、数えきれないくらいの試合をこなすうちに、何度も脳裏で反芻されていた言葉。


 練習量も環境も人それぞれ違う、それら全てを差し置いて、マスクを被ってグラウンドに立っているうちは、自分がチームの中心だ。


 我儘だからこそ、野球には真剣だ。


 死ぬ気ではない、真剣に自分がしたいプレーをする。


「るぁあっ!」


 近くで矢内の踏ん張る声がした後、金属バットがボールを叩く鈍い音が響く。


「っ……」


 打球の行方を追った乃村は、マスクを外して溜め息をつく。


 ボールはショート慶野の遥か頭上で滞空し、そして重力に引かれて力なく構えられたグラブめがけて落ちていった。


「アウト!」


 この回三つ目のアウトコールが響き、溜め息と拍手が沸き起こる。


「ずっとインに来ると思とったんじゃけどのー!」


「あはっ、一発狙ってるなら、インが欲しいよね」


「やわい顔して木田の奴みたいな事言って、キャッチャーは性格悪いのう!」


 げらげらと笑いながら、矢内はベンチへと悠然とした足取りで戻っていく。


「真面目じゃやってられないよ、キャッチャーなんて」


 それに対し乃村は小さな声でそうこぼしながら、彼に対して背を向け、無失点に抑えマウンドを降

りる臣川の元へと駆け寄っていくのだった。



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