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二年目 春 ー20

「初球から打ちやがったよ、あいつ……」


 乃村のヒットにベンチが盛り上がる中、雄一は呆れるように呟いた。


 上和が出塁して反撃の雰囲気が出来始めたとはいえ、凡退を恐れて初球に手を出すのは勇気がいる行為だ。


 フォアボール直後だからストライクを取りに来ると予期はしていただろうが、それにしても迷いのないスイングだった。


 打った本人は少しぎこちない表情を浮かべてベンチに手を掲げている、おそらく長打にならなかった事が悔しいのだろう。


(あんまギラギラするなよ、俺が出にくくなるだろ)


 ストレッチをして代打の準備をする雄一、にわかに追い上げの可能性を期待する球場の雰囲気に顔をしかめながら、それでも塁上の乃村に軽く腕を掲げる。


「……なぁ葵田」


 そして背中を向けたまま、未だ肩を落としながらも腰を上げたままグラウンドを見つめていた葵田に声をかけた。


「なんですか、慰めてくれるんですか?」


「気持ち悪い事言うな……羽場は疲れてきてると思うか?」


「え? ……分からない、す。でも、乃村先輩が打った球は高めに抜けてたように思いますけど……」


「そうか、俺と同じ意見だな。横から見てたら、フォークを投げた時だけ少しだけ腕の振りが大きいように見える」


 筑紫ベンチの一回目の守備のタイムが終わり、バッターボックスには四番キャプテンの旗川が向かっていく。


「試合に出てる奴は大体皆疲れてるんだろ、俺はいつもベンチスタートだから、大して疲れない、体はな」


「僻みですか?」


「……そうだな。俺はスタメンで出たいが、お前に奪われたし取り返せてもない。けど、代打としては俺はお前より上だと思ってる」


「そりゃ、先輩の方が代打で出る事が多いから、すよ」


「あぁ、だから……俺が打っても打たなくても、お前は俺に文句言うなよ?」


「なんですか、それ」


 苦笑する葵田、ようやく強張っていた表情に緩みが生まれたように思えた。


 その時、ガキンと鈍い音がグラウンドから鳴り響き、雄一と葵田の視線が同じ方向を向く。


 旗川が打ち上げた白球は、しかし中途半端に伸びてセカンドの頭上を越える。


「おっ、」


「落ちろぉ!」


 雄一が呟こうとした言葉を、横で葵田が飛び上がりながら叫んだ直後、ボールは相手のセカンドと

ライトのちょうど間でバウンドし、その間に上和が俊足を飛ばしてホームへと帰ってくる。


 一点返して三点差、追い上げの空気が現実味を帯びてきた試合展開に甲子園のスタンドがざわめき

混じりの歓声に包まれる。


「よーし一点一点!」


「いいぞキャプテーン!」


「慶野一発狙え狙え!」


 戻ってきた上和とハイタッチしながら、タイムリーを打った主将の旗川に称賛の声が放たれる。


「……スッキリしたか?」


「っ、俺が逸らしてなければ、追いついてたかもって、」


「かもな。だから……俺に出番が来る」


 そう答えて、自分のバットを取りに行く雄一。 


 あと三人回れば、葵田の打順だ。


「恰好つけたいって、珍しく思えてきたな」




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