二年目 春 ー9
「アウトー!」
九番打者の羽場をセカンドゴロに抑え、臣川と乃村のバッテリーは第一打席で先頭打者ホームランを放った矢内を打席に迎える。
(さて、こういうのは調子乗らせたままじゃまずいよね……)
じろりとバッターを舐めるように視線を動かす乃村。
緊張など微塵もない、打撃へのプレッシャーを感じていない、自信を隠す事のない矢内の立ち姿は、強打者のそれだ。
(振ってくるなら……)
乃村の要求はインハイの直球、狙い通りに釣られて矢内はボール球に空振りする。
「ふぉ~! さっきよりはええな!」
楽しむような口振りでバットを構え直す矢内。
(少しはビビって欲しいんだけどね)
感覚で野球をやってるバッター相手のリードは骨が折れる、何を考えているか分からないからだ。(ならさ……)
ミットを構える乃村の要求に、臣川は豪速球で答える。
高めの釣り球に、矢内は構わずかちあ上げるようにスイングした。
明らかに打ち上げられたボールは、しかしふらふらと揺れながらもライトが数歩下がるまでの距離まで飛ぶのであった。
「だーダメかー!」
「……地方なら入ったね」
「だよなあ」
乃村の呟きに躊躇なく答えながら、矢内は立ち去っていく。
(一打席のプレッシャーが凄く重い、これが全国大会か……)
汗も熱気も普段の倍以上に感じられる、乃村にとってここまで緊張した試合はいつ以来だろうか。「……早く出てきなよ」
ベンチにいる親友に向けて一言呟く乃村。
グラウンドに立つ興奮をすぐにでも分かちあいたかった。




