二年目 春 ー8
「アウトー!」
四番空木を外野フライに打ち取り、水美野球部二回の攻撃が始まる。
「よく立ち直ったね」
「はん、あんなの事故だっつの」
ベンチへ戻る途中、乃村のかける言葉に臣川は顔を反らしながら答え、わざとらしく鼻を鳴らす。「でもさすがに、ファーストストライクからちゃんとスイングしてくるね」
「あれに完常が勝ったとか、悪い冗談だろ、クソ」
臣川は思ったほど被弾による精神的ダメージは無いようで、胸を撫で下ろす乃村。
「さて、早いところ追い付かないとね……」
プロテクトを外した後、ヘルメットとバットを手にベンチの前列へ。
「雄一」
「ん?」
「ちゃんと見ててよね、景色じゃなく試合を」
「当たり前だ、観光に来た訳じゃねえよ」
「分かってるよ、雄一はそういうの嫌いだしね」
ほくそ笑みながら、乃村は内心安堵していた。
(適度に緊張適度に緩める、やる事を変えちゃいけないよね)
まだ試合は八イニング、二時間以上この熱気の中で戦い続ける必要がある。
失点を気にしていては、メンタルがもたない。
だが、水美野球部員はいやがおうにも神経を磨り減らされる事になる。
相手投手・羽場の圧倒的なピッチング内容に。




