二年目 春ー7
「おーしゃい!狙い通りじゃい!」
嬉しそうに声を上げながらホームを踏んで帰ってきた矢内に対し、ネクストバッターズサークルから出た井波はハイタッチと同時に彼の尻を叩く。
「バカ、見ていけって監督言ってたじゃん」
「見た見た、見ていけるって思ったんじゃし!」
ハハハ! と叫んでベンチへ戻った矢内は、待ち受ける自軍のクリーンナップと対峙して、思わず体を硬直させる。
「矢内なぁ、あんま言う事聞かないんなら、わいと打順変わってもらうぜ?」
「いや勘弁してーや空木先輩、ランナー見ながら打つの嫌じゃし」
「なら勝手すんなし」
空木の言葉に頭を掻きつつ、矢内はベンチの奥へと逃げていった。
「あの馬鹿よう」
「初球打ちの癖は治らないなーアイツ」
「球見て振ってんならええんじゃがな」
三番松永と四番空木、九州大会を圧倒してきたチームの主軸の会話は、試合開始直後とは思えないほどの余裕に満ちていた。
そしてすかさず二番バッターの井波が、臣川のストレートを打ち返しセンターへ運んで歓声が沸き起こる。
「さすがナミじゃ、上手いわ」
「おっしゃー、続いてやるか!」
ネクストバッターズサークルから出ながら松永はバットを眼前に構え、笑顔で気合いを入れるような大声を発する。
(正直、一番の目標は夏。じゃけど体調も環境も、スカウトにアピールするには春の方がええけんな)
彼等が目指すのは夏の優勝、今の世代が戦力として完成されるのはまだ先だ。
このセンバツはあくまで現時点で自分達が全国でどこまで通用するかの腕試しでしかない。
(神宮大会じゃ完常に足元掬われたが、あの時はピッチャー二人が体調崩しとったけん、ノーカンじゃ)
狙うは強豪の撃破、そのためにはここで苦戦してはいられない。
自分達の目的を再認識して、ネクストバッターズサークルで集中力を高める中、
「アウトーっ!」
アンパイヤの大声に続いて球場全体から歓声が上がる。
「刺したー!」
「さすが超高校級!」
「乃村くーん!」
ヒットで出塁した井波が盗塁を仕掛けたものの、水美高校のキャッチャー乃村のスローイングが二塁で刺したのだ。
「あいつ…強肩なのは情報通りやな。かわいい顔して」




