二年目 春 -4
「ええかお前ら」
試合開始直前、監督の野間笠はベンチ内で部員達に向かい合って、濁った声を放つ。
「別に野球はどこでやろうと、ルールは変わらん。見る人間が勝手に特別扱いしとるだけやけん、お前らは気負う必要なんかないんじゃ」
監督の言葉に息を呑む、水美野球部一同。
その表情を見渡した後、野間笠は咳払いをして、
「けんどみっともない試合をしてきたチームとも思っとらん、全員、頭も体も使って、勝ちに行ってこい。ええな?」
「おぉっす!!!」
気合いの込められた返事を合図に、選手達はグラウンドへ飛び出す。
「頭ね……」
雄一は小さく呟きながら、小走りで整列に向かう。その背中の背番号は、十七。
「落ち込むなよ、雄一」
すぐ横を通り過ぎる上和が、ニヤニヤしながら背中を叩く。
「スタメンだからって偉そうにすんな」
「まあ落ち着けって、一打席でも四打席でもやる事は変わらねぇって、それにお前一試合出まくるスタミナ無いだろ?」
「……どっちでも良いよ、打っても打てなくても」
誰が打とうが打てまいが、目指すべきはそこではない。
(勝てば個人の成績なんて、誰も覚えてないだろ……)
聖地と呼ばれる甲子園のグラウンドに来て、チームが勝つ以外に目的を持つ球児など、どれだけいるだろうか。
「俺も勝ちたいさ」
そして雄一もまた、端から見れば大多数の一人。
とにかく甲子園で勝ちたいと思う、普通で必死な高校球児であった。




