二年目 春 -3
「相手って強いの~」
試合開始まであと三十分を切った頃、エリナが呑気に尋ねてきた。
「もう、昨日も聞いたじゃない」
「そうだっけ?」
相変わらずマイペースな彼女に嘆息した後、早希はスコアボードの方へ目をやる。
「九州筑紫学院、去年は……春も夏も地区優勝して、甲子園でも一勝ずつしてる」
「つまり、強いの?」
「そうだって言ってるじゃない」
もう、と息を吐く早希。野球部が甲子園出場を決めた直後から、学内は全校生徒による応援の遠征計画を立て、ブラスバンド部による演奏練習が活性化し、一週間前からは応援歌の歌詞ガードが配布された。
(なんで野球部ばっかこんな持て囃されるの?)
そんな思いが心の片隅に浮かび上がる事もあったが、それでもこうして、部活の休みに同意してまで応援の一員となっているのは、単に周りに流されただけではないと、早希は信じていた。
「……見せて下さいよ、たまには真面目な姿を」
野球のルールはうろ覚え、それでも向こうにそびえ立つ広大なスコアボードに浮かび上がっている文字ぐらいは読める。
そして水美野球部の先発メンバーの中に、彼の名前が無い事にも、早希は気が付いていた。




