秋 - 52
暮れの季節、既に薄暗くなりだした夕焼けを背に、生徒達が帰路につく。
談話する者、寄り道する者、真っ直ぐ帰る者、急ぐ者、多様な顔や行動を見せる生徒達の騒々しさに混じるようにして、鈴浪もまた友人のエリナと加奈と共に下校中であった。
「もっと練習したいんだけどなー」
「なに言ってんの~こんな寒い日に」
「五時までじゃ全然足りないよ、本当なら自主練したいんだけど」
「……暗くなるから、危ない」
「分かってるって」
冬は日が暮れるのが早いため、下校時間も17時に繰り上げられている。
当然部活動の時間も短くなり、やる気のある生徒にとっては物足りなさを感じている時期だろう。「冬休みも部活ばっかか~嫌だな~寒いと肌が乾いちゃうし」
「乾燥したら動きにくいものね」
「そうじゃなくて~」
寒さを紛らわすように会話を続ける早希達は、やがてとある十字路に差し掛かり、早希は二人と別れて自宅を目指す。
「あ、れは……?」
しばらくして彼女は視界に小さく映る何かを発見して、静かに立ち止まった。
「何やってんの、あの人」
呆れるような言葉が向けられた人物は、坂の途中の自販機の前に突っ立っており、キョロキョロ視線を動かしては落ち着かない様子だった。
「先輩、早く帰ったらどうですか」
気が付けば真横に鈴浪早希がいて、片眉を下げてこちらを見つめていた。
「いやその……喉が渇いてな」
「買えば良いじゃないですか、寒いのに」
「まあ、そうなんだが……」
「……奢ってくれるんでしょう?」
「ん……まあな」
本当はこちらから話しかける予定だったのに、逆に話しかけられて言われるがままになってしまう雄一。
「えっと、スポーツドリンクで良かったか?」
「はい、先輩はエナジードリンクですよね?」
「ん」
生返事しながら小銭を自販機に入れ、それぞれの飲料のボタンを押す。
「はいっ」
「うお!? 何してんだよ」
そして二本目にエナジードリンクが出てきたところで、早希は雄一よりも先に手を伸ばしてそれを掴み、横取りしてきた。
「そっちじゃないだろぉ、っと」
言うよりも早く、早希が投げてきたのは、彼女が飲む筈のスポーツドリンクだった。
「たまには違うの飲んだ方が良いですよ」
「部活中に散々飲んでるっての」
それでも聞かずに歩き出す早希、雄一は仕方なく後をついていく。




