秋 - 50
(空振るイメージがしないっちゃね)
球を投じる事に感じる、打者中光のバッティングセンス。
真っ向勝負は勿論だが、点差は一点、ノーアウトでランナーを出す訳にはいかない。
(だったら……)
新田は口元を僅かに綻ばせ、グラブを数回左右に振る。
それを見たキャッチャーの梅谷は片眉を潜めてサインを改めて出す。
要求は変わらずフォークだったが、新田は再びグラブを振る。
(これじゃないと無理ったい!)
根拠はない、だが新田はピッチャーとしての本能でそう感じていた。
今までの自分の球に、あのバッターは反応してくると。
観念したのかキャッチャー梅谷は、溜め息をつき睨みを効かせながらミットを低く低く構えた。
ニヤリと新田は笑い、ボールを握り直す。
(ハンパじゃダメったい、振り切れや……っ!)
そして新田が投じた一球は、ストレートより僅か遅く、変化球と呼ぶにはあまりに小さな変化をするボール。
つまりは、ツーシームと呼ばれる動く球の、未熟なものに過ぎなかった。
金属がボールを叩く音が響き、白球が秋の空を背に舞い上がる。
「セカンドちゃーセカンド!」
だが新田は音だけですぐに理解した、振り返った時には既にボールが二塁手のグラブに収まっているだろう事に。




