秋 - 48
試合は追加点がないまま八回を終えて九回表、 臣川は四番冨川を外野フライに打ち取って九回を投げきってみせた。
「ナイスピー臣川!」
かけられる労いの言葉に、臣川は笑うどころか苛ついたような表情を浮かべ、
「そろそろ獲ってこいよ点!」
「いやあ、分かってんだけどなあ……」臣川の叫びに慶野が苦笑いで答える。相手の二人目のピッチャー野賀は、一人目の新田ほど威力ある球は持っていないが制球力に優れ、ここまで淡々と打ち取られ得点を奪えないでいた。
「一点獲るぞ、一点獲れば勝てる! 繋いでいくぞ!」
旗川の掛け声に気合いを入れて返事をするナイン。
その先陣を切って打席に向かおうとするのは、他ならぬ雄一であった。
(流れを作れってか? ランナーいないってのに)
チャンスで強い雄一が、チャンスメイクをせざるを得ない場面。
要するに雄一の打席に勝敗がかかっているという事だ。
「先輩!」
バットを手にしたとこで、声をかけてきたのは葵田。
「なんだよ、集中してんのに」
「クリーンヒットさせてたのは先輩だけでしたよ」
「落ちなかっただろ」
「それでも、打てるんでしょ。俺よりは」
言葉の節々から伝わる、ピリピリとしたプレッシャー。
「そうだな……お前よりは打たないとな」
「……そうじゃないと、ムカつきますから」
出番を奪われた立場にいる人間として、葵田はそう発破をかける。
「こわ」
雄一は苦笑を浮かべてバットを握り直す。
ここで雄一が出塁するか否かが、試合の結果を左右する。
やれるかではない、やるしかない。
「ん……? あ、」
しかし雄一は歩み出した足を再び止め、マウンドの方を見つめる。
そこへ向かっていったのは、先程の回まで投げていた野賀ではなく、先発として登坂し途中から外野へ回っていた筈の豪速球ピッチャー・新田だった。




